重いドアを押し開けると、安っぽいジャズと、
誰かが吐き出した過去の匂いが混じり合っていた。
カウンターの隅、止まり木に腰を下ろし、
指先で氷を転がす。「春の星屑を、一杯」
冗談のつもりで頼んだが、
バーテンは眉ひとつ動かさず、
琥珀色の液体をショットグラスに注いだ。グラスの底で、砕かれたクラッシュア...
重いドアを押し開けると、安っぽいジャズと、
誰かが吐き出した過去の匂いが混じり合っていた。
カウンターの隅、止まり木に腰を下ろし、
指先で氷を転がす。「春の星屑を、一杯」
冗談のつもりで頼んだが、
バーテンは眉ひとつ動かさず、
琥珀色の液体をショットグラスに注いだ。グラスの底で、砕かれたクラッシュア...
夜風が少しだけ、湿った土の匂いを運んできた。
冬の残党が吐き捨てた最後の溜息に、
微かな甘い毒が混じる。
それを世間は「春」と呼ぶらしいが、
俺の肺には、ただ重く沈殿するだけだ。見上げれば、都会の煤に汚れた夜空。
輝きを忘れた星どもが、
砕け散った硝子の破片のようにバラ撒かれている。
「星屑」なんて...
ああ、長崎。この街は、どうしてこうも坂ばかりなのでしょう。
息を切らし、自らの罪の重さをふくらはぎに感じながら、私は本河内の急な石段を這うようにして登っておりました。滑稽な姿です。まるで地獄の針の山を登る亡者のような、それでいて一丁前に「救われたい」などと願っている、恥ずべき男の姿です。 ...
ピレネーの冷たい風が、コートの襟を叩く。
マッサビエルの洞窟は、
誰かの罪を飲み込んだ後のように口を開けていた。羊飼いの娘は、幻を見たという。
俺たちの世界じゃ、そいつは「イカれてる」か
「見ちゃいけないものを見た」かのどっちかだ。
だが、彼女が指先で土を掘り返すと、
そこから溢れ出したのは血じゃな...
ああ、神様。あなたは本当に、意地が悪い。
ピレネーの麓だか何だか知りませんが、こんな遠いところまで、わざわざ恥を晒しにやって来る人間の身にもなっていただきたいのです。 ルルド。そこには病を治す不思議な水が湧いているのだと、誰かが書いた古ぼけた雑誌の端に書いてありました。私はそれを、鼻で笑いました...