男は百科事典に没頭していた。
項目を見ては、「ほう」とか「おお」といった声を上げている。
「ねえ」わたしは男を横目に見ながら、小声でサヨコを呼んだ。
「なんですか」
「警察に通報したほうが、いいんじゃない?」
「そんなに変な人には、見えないですけどねえ」呑気にサヨコが言った。
「そうだけど」わた...
街の記録とどうしようもない毎日のことなど
そして小説
男は百科事典に没頭していた。
項目を見ては、「ほう」とか「おお」といった声を上げている。
「ねえ」わたしは男を横目に見ながら、小声でサヨコを呼んだ。
「なんですか」
「警察に通報したほうが、いいんじゃない?」
「そんなに変な人には、見えないですけどねえ」呑気にサヨコが言った。
「そうだけど」わた...
気味悪がるサヨコを尻目に、わたしは男に事情を聞くことにした。
男はしばらく口を閉ざしていたが、やがて意を決したように、口を開いた。
「何から話していいのかわかりませんが」そう前置きして男は言った。
「多元世界、という言葉をご存知ですか?」
わたしは首を振った。
「あ、聞いたことあります」サヨコ...
「外、雪になってきましたよ」
ごみを出しに行ったサヨコが戻ってきた。
「今日はダメかもしれませんねぇ、お客さん」
「嫌なこと言わないでよ」
わたしはカウンターを拭きながら答えた。
十二月に入ってから急激に冷えこんでいる。
雪が降りそうだ、と思っていたらやはり降ってきたか。
ラジオの交通情報...
マスクをしているといつももどかしくて嫌になる。
だけど、外から来た人はマスクをする決まりだった。
ほんの3ヶ月前までこっち側だったんだ。
あのときはマスクしなくてよかったのに。
「窓開けてくれよ」
ベッドの中からユウイチが言った。
「窓、開かないよ」
私が言うと、ユウイチは馬鹿にしたよう...
今日も 僕は生きている
120円の缶コーヒーだけを生命線に
白線をまたいで生きるんだ
通勤電車の風 ここちよい
明日になればたぶん今日よりマシなはず
明日になればたぶん今日より生きられる
ちょっとだけ ちょっとだけ
山のあなたに会いたい
山のあなたに会いたい
この線路の...