カイ × サイル (弟子のナナヤ様)3
- 2024/07/08 23:24:03
▼キャラ設定
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名前(フリガナ):カイ・アビー
性別:男
年齢:22
容姿:
白に近い金色の髪の毛を前下がりになるように切り揃えられている。長さ的には耳が半分隠れる程度。前髪は長く、左右に流している。よくかき上げているからか、綺麗にセンター分けになっている。細い眉に切れ長の瞳はアパッチ・グリーンのような色をしている。肌はどちらかというと白い。
騎士団用に配布されている服装を少し着崩している。
性格:
堂々としており、気が強い。加えて何でも卒なくこなせるため、交渉力や戦略を考える能力にも長けている。まるで蛇のように相手をじわじわと自分の手の内に収めていくのがうまい。一方、想定外の出来事や思い通りにいかないときは酷く動揺し、いつもの調子が崩れてしまうこともある。恋愛についてモテることも多いため、惚れてきた相手をあしらうことには慣れているが、自分から好きになった相手にはかなりぶっきらぼうな姿を見せる。
その他:
キゾン王国の騎士団の1人。若手ながらもその実力から一目置かれている。騎士として戦場に向かう頻度はあまり多くはなく、どちらかというと敵国への交渉役や戦略を考えるなどの指示役が多い。そして騎士団長の1人であるクロードのことをかなり慕っている。周りには横柄な態度をとることがほとんどであるが、クロードに対しては常に敬語で礼儀正しく振る舞う。彼曰く「あの方の力、技術、考え方には頭があがらない」とのこと。
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名前(フリガナ):サイル
性別:男
年齢:18歳
容姿:
柔らかくて癖のない、淡い金髪。無造作に襟首あたりで短く切り揃えられている。遺伝的に片方の鬢(びん)だけ髪色が濃く出る体質。
肌は薄くも白くも濃くも無く。少し痩せ気味の体型。傷には強い。
ライトグリーンの瞳。耳は敏感な為、いつも髪の中に隠れている。
先祖はは森の民で、元から手先が器用。毒には耐性があり、一般人なら致死するものでも耐えて生き延びられる強さがある。ただ、効き目の方は通常より高い。(要は死なないだけ)
その他:
チャボラは、多国間に跨る貧民街だった。他民族が混ざるそこの出身者は通常の兵士になる事が出来ず、仕事は主に諜報員か使い捨ての兵士としてしか働けない。大半の住民は貧困の中、物乞いをするか、犯罪に手を染めて、その日の糧を必死で稼ぐ生活をしている。
サイルは何処の国にも属さない流民の子としてそこで生まれ育ち、幼くして両親とは生き別れた。空腹に耐えかねて始めたスリも、初めは上手くいったものの、手を出す相手を見誤り、憲兵に捕まってしまう。
通常なら、そのまま切り殺されるのだが、たまたま通りかかったクレアに助けられ、手先の器用さから諜報員として活動する道を開いてもらった。
▼ストーリー設定
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参加者様キャラ名:サイル
管理人キャラ名:カイ・アビー
ストーリー:
キゾン王国が長期間に渡って準備して来たとされる規模の大きい重大な作戦の情報を、城に潜入して無事に入手する事が出来たサイルは、脱出する途中でキゾン王国の兵に見つかってしまい、中庭へ追い込まれてしまう。幾つか負傷しながらも植え込みの陰で身を潜め、入手した情報だけでも仲間に届けるべく暗号化して、鳥と鼠にそれぞれ結び付けて解き放った。
だが、それで隠れているのが見つかってしまい、王国の兵達と戦闘になる。善戦したものの力及ばず、死を覚悟して命を絶とうとした瞬間、後頭部を殴られ気を失った。
そして、目を覚ましたサイルがいたそこは、ただの牢では無かった。
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辛く苦しい時間も残りわずか、というところでしょうか?
サイル様の自由をカイが手助けできたらと思います
今後ともどうぞよろしくお願いします。























表の通りを一通り見物し、路地裏から更に細い路地裏へ、足を踏み込ませると幾つもの通路と階段が入り混じる少し広い窪んだ場所に出た。
目的地はまだ先だった。汚泥交じりの広場ではガラの悪い人足達がちらほらと立ち並び、雇い主を求めて目を滾らせているし、表沙汰にできないものを手に入れようと足を踏み込む商人や傭兵が、互いをけん制しあい、商談していた。
カイにはその窪地の広場を見下ろす入口で待機してもらい、サイル単独でとある商人の露店へと足を運ぶ。
「よお、兄ちゃん。随分若いのに度胸があるな。」
馴れ馴れしくガタイの良い人足が、気さくに声をかけてくる。愛想笑いでサイルは素通りし、目的の店で品物を買った。そしてふと、目に留まったように、その近くで座り込んだままの乞食を観察し、サイルは彼の元へ足を向けた。乞食の前にはそこいらで拾ってきたような、使い古した紙切れが何枚も重ねられ置かれている。見様によっては売り物…のつもりなのだろう、その紙切れをサイルは指差し。
「紅香紙をください。」
そう言って小銭を掌に乗せて差し出す。だが乞食は全く気付いていないようだ。襤褸布を禿げた頭からかぶり、やせ細った体に纏わせ座り込んでいる小柄な老人のような男。その目も開いているのか、見えているのか聞こえているのか、それさえわからない。最初に声をかけてきた人足がサイルに言う。
「よしな、兄ちゃん。そいつには何も見えてねえし、聞こえちゃいねぇよ。」
だが別の所から子供が老乞食の元に駆け寄り、顔を覗き込んでは彼の手元の紙を取って、サイルに手渡した。サイルはそれを受け取って小銭を子供に渡すと、その場を後にし、カイの元へ戻る。
促すようにカイの背を押し、その場から離れる。表通りよりももう一本内に入る路地の小さな宿場で、サイルは少し甘えるようにカイに頭を凭せ掛けて言った。
「少し…疲れたので、宿で休憩しましょう。」
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宿の部屋に入れば詳しくサイルから状況説明します。
サイルから貰えた相手の情報は大体把握した。細かいことまで教えてくれようとしているのは、サイル自身も不安だからだろう。俺も、いや誰でもそうだが、100%の保証をもって何か行動に出ることはほぼない。特に戦場に身を置いていた自分やサイルの立場では尚更、むしろ半分も保証が取れていないような出来事にだって首を突っ込んできたはずだ。これまでの経験値とほんの少しの勇気が保証の取れていない世界にも足を踏み入れる力をくれる、ただそれだけだ。
「何をしてくるか分からない相手に、王太子殿下を巻き込むわけにはいかない。それはお前にも分かるだろう。いくら彼らのためとはいえ、我らのリーダーをそう容易く出向かせるわけにはいかない。…信用ならないのは、俺も、俺から見た相手も同じだ。身の安全のために王太子殿下を呼ぶなど言語道断。ただ、お前がそこまで言うのであれば、俺は信じる努力はしよう。」
そういって立ち上がる。落ち着いた表情とどこか先を見ているような瞳でサイルを一喝すると、俺は部屋を出て行った。
数日後、サイルの手配により、”彼ら”に会う日がやって来た
「…俺は、もうずっとカイを信じてますよ。信じてるから…俺がいた組織のこと話したんです。」
渡されたハンカチで涙を拭うと、強い眼差しでサイルは語り出した。
「きっと、彼らは“国”という存在を信用できない。だから、人間としての皇太子殿下なら地位も権力も為人も揃っているから、彼らでも信用すると俺は見ています。でも…」
僅かに伏し目がちになり、サイルはカイから視線を逸らした。
「カイには恐らくそこまでの信用を持たない…し、場合によっては排除する方に動く可能性だってある。俺は、カイが王太子殿下に同行して彼らと会うのが一番安全だと…思っているんです。」
本来なら当人を前にして言う話じゃない。カイの立場なら俺の今した話は論外だ。
「…前に、彼らと会う事が安全かどうか、訊いてましたよね。正直、俺は彼らにとって裏切り者です。排除されるか、切り捨てられるか、会いに行って無事な保障はありません。向こうも俺がそう考えると判断しています。
でも、このままで何もしなければ…今の彼らは、住処を失い、より魔獣に襲われる危険に身を晒す中で、やがて安住の地を奪いに牙を剥く。そうなったら…国とも、騎士団とも敵対する関係になる。その先に彼らの未来は有りません。」
抑えていた筈の涙が、再びサイルの瞳から零れ落ちた。なまじ個々の能力が高い分、誰にも頼る事が出来ない結果を生み出している。彼らが他人を信用しないというのはそういう事。
「“彼”は俺に薬の知識、毒の知識、人体の弱点や構造、その他生き延びるのに必要なあらゆる事を教えてくれたんです。例え俺が何処で独りきりになっても、迷わず生き延びられる様に。
正直俺も“彼”自身の事はよく知りません。でも、“彼”にはまだまだ俺の知らない知識があるし、キゾン王国にとっても有益な存在になる筈です。だから…」
縋る様に、サイルはカイを見つめていた。
「…俺は、もうずっとカイを信じてますよ。信じてるから…俺がいた組織のこと話したんです。」
渡されたハンカチで涙を拭うと、強い眼差しでサイルは語り出した。
「きっと、彼らは“国”という存在を信用できない。だから、人間としての皇太子殿下なら地位も権力も為人も揃っているから、彼らでも信用すると俺は見ています。でも…」
僅かに伏し目がちになり、サイルはカイから視線を逸らした。
「カイには恐らくそこまでの信用を持たない…し、場合によっては排除する方に動く可能性だってある。俺は、カイが王太子殿下に同行して彼らと会うのが一番安全だと…思っているんです。」
本来なら当人を前にして言う話じゃない。カイの立場なら俺の今した話は論外だ。
「…前に、彼らと会う事が安全かどうか、訊いてましたよね。正直、俺は彼らにとって裏切り者です。排除されるか、切り捨てられるか、会いに行って無事な保障はありません。向こうも俺がそう考えると判断しています。
でも、このままで何もしなければ…今の彼らは、住処を失い、より魔獣に襲われる危険に身を晒す中で、やがて安住の地を奪いに牙を剥く。そうなったら…国とも、騎士団とも敵対する関係になる。その先に彼らの未来は有りません。」
抑えていた筈の涙が、再びサイルの瞳から零れ落ちた。なまじ個々の能力が高い分、誰にも頼る事が出来ない結果を生み出している。彼らが他人を信用しないというのはそういう事。
「“彼”は俺に薬の知識、毒の知識、人体の弱点や構造、その他生き延びるのに必要なあらゆる事を教えてくれたんです。例え俺が何処で独りきりになっても、迷わず生き延びられる様に。
正直俺も“彼”自身の事はよく知りません。でも、“彼”にはまだまだ俺の知らない知識があるし、キゾン王国にとっても有益な存在になる筈です。だから…」
縋る様に、サイルはカイを見つめていた。
俺は自分の国のことしか把握できていない、他の国がどのように人間を駒にし使い捨てているのか、その彼らがどのような扱いをされているのか知る由もなかった。恐らくベレアンだけが例外ではないだろう。他の国々だってそうやって兵士を使い、領土と国の威厳を保っているところだってある。そうして成り立つ国もあるのだ。
そんな方針を良しとしない我が国の主は、忠誠を誓うに値する方々だ。そうあれたからこそ、小さき国でありながらも騎士達がまとまり、大軍勢と呼ばれていたベレアンに打ち勝ったのだ。
人の命に優劣はない。訓練生中、そのように叩き込まれたことは今でも忘れていない。
サイルに近づき、片膝をついた。そしてサイルに顔をあげるよう促す。顔を上げたサイルに胸元からハンカチを取り出して渡した。
「俺はお前を信じて様々なことを任せた。自由にさせていた。…その恩人を救いたいと、本気で願うのであれば、…今度はお前が、俺を信じてくれ。」
信用されていなかったと、俺は思っている。だからこその言葉だった。
「本気で、彼らと関わることを…望んでいただけますか。」
カイが(チャボラを)知らなくて、当然だ。だって目の前に存在しても目には映らない、そういう存在なのだから。どの国にも見捨てられてきたからこそ、誰にも頼らず生き抜く為の自衛精神が強く染みついている。
仲間と認めた相手には心を開くけれど、それ以外には存在すら認識させない。
ペレアン側のチャボラに居た時は、所謂流れ者や逃亡者、それに貧民が行き着く吹き溜まりみたいではあったが。此処キゾン側のチャボラは“彼”の下に、弱者が生き残れる様に形成された或る種の部族…のようなもの、だ。
最初はベレアンも能力の高い者がいるからチャボラ出身者を利用しようとしたけれど。後に形成された組織は、そのベレアン中枢すら喰らう様な化け物が支配し、(チャボラを)使い勝手の良い道具に変えた。俺が入った時点ではもう、組織は戦争を煽って好き勝手に全てを貪っていた。“彼”が…同胞を少しでも守る意志から、組織の支配に対抗して立ち上げた…それが今のチャボラだと言ってもきっと過言ではない。
でも、人目を避けるが故に湿原のすぐ傍で生活しているなんて誰も知らないし、その影響で肉体が蝕まれていることも、“彼”の体のことも─
そう思った瞬間、サイルの瞳から涙が零れた。気付いてしまったのだ。自分だけ、(カイと)幸せに…なんて、決してなれない。俺自身が自分を許せないのだから。
カイの言うとおりだ。俺は結局カイを利用して自分の身勝手な気持ちを納得させようと、しているだけ。
零れ落ちた涙が床に小さな染みを作る。サイルは微動だに出来なかった。カイの眼を見つめ続け、それでもぐっと息を飲んではどうにか声を絞り出す。
「カイ・アビー騎士団長殿。どうか…どうかお願いします。」
サイルは一歩下がり、ゆるゆると両膝を床に着いた。諦め切れない想いがサイルを止《とど》めようとせず、突き動かす。そして体を折り曲げ、額を床に擦り付けた。
「俺にとって“彼”は命の恩人なんです。…そんな言葉じゃ言い表せない位、恩を受けてきた人なんです。今ならまだ間に合うかもしれない。彼に治療を受けさせて欲しい。どうか…どうかお願いします。」
嘘偽りなく正直に答えた。ここで見栄を張り嘘を付いたって仕方ない。チャボラという単語はサイルに出会ってから初めて聴いた名称だった。サイルもその一人だと聞いているが、自分達の変わりはいくらでもいると教育され、人を人として扱われてこなかった様子だけは伺える。あくまでもサイルを介してでないと認知できない人々だと思っている。
サイルが話す言葉に俺は顔を顰めることしかできなかった。我が国にも貧しい人たちは少なくない。だがサイルの話すのは貧困とはまた別なのだろう。虐待や差別に近しい、そんな環境を国が擁護していたというのか。何という卑劣な国だな、ベレアンとは。
「…それ以上は、俺がこの目で見る。…面会の手配はできるか?」
「会わせたいのは、俺が情報を託していた相手です。カイは…チャボラについて、どの程度の知識がありますか。」
真っ直ぐにカイへ向けて問う。そこに人が居ても気付かれない、存在しない、国民に目を背けられ続けてきた存在、それが“チャボラ”だ。
決定権がある王太子に繋いで貰いたかったのは対応速度の早さを期待したからだが。今はカイを危険に晒したくない気持ちが大きい。王太子相手にでは“彼”等は手を出さないだろう。けれど多分、カイの立場の人間なら排除する可能性だってある。チャボラの仲間を危険視させたくは無いし。
どう言えば、何処まで言えばカイに納得して貰えるんだろうか。
「俺は、“彼”等の現状を知って貰いたいんです。食事どころか飲み水さえまともに得られない彼らの実情を…」
そう言ったが、サイルはそれ以上言葉に出来なかった。哀しさが胸の内に募っていく。
「…結局俺はお前にとって、自分の望みをかなえるための道具でしかないんだな。よく分かった。」
先ほどの言葉で、こんな簡単に淡い気持ちを抱いてしまった自分が愚かだったと気付く。すぐにサイルから目を離して書類への目を落とし、ペンを走らせ始めた。
「戦争中は、お前の知識が我々の勝利に必要だと思い、お前の望みに従った。王太子殿下との面会ができたのもそれが理由だ。しかし今、戦争は終わり、ただの奴隷となったお前の望みを容易く叶えてやることはできない。」
走らせたペンを一度置き、鋭い目つきでサイルを見つめる。
「それに順番が違う。…お前が王太子殿下に何をお見せするか、その背景も内容も知らないまま取り次げと?…俺は信用ならないし、決定権は王太子殿下にあるから、話をするための踏み台に俺を使っているようにしか聞こえなかったが、違うか?」
そう捉えたっておかしくないことを平気で言われたような気がした。少し言いすぎだとは思っている。しかし真剣に対話を求めてくる人間に、それ相応に向き合わなくてどうする。
「取り次ぎたい内容を俺に見せろ。俺の許可が得られたら、王太子殿下に取り次ごう。…できないのであれば、この話は受けられない。」
サイルは再びカイに近づくと、その耳元に囁いた。
「今すぐカイとシたい、なんて言ったら困るでしょう?」
そのままカイの耳朶を軽く舐めて甘噛みする。そしてすぐに口を離し、体を起こした。拗ねる様な眼でカイを見つめ、踵を返して再び真正面に向き直る。
そして軽く目を閉じ、気持ちを切り替えて真顔でカイに懇願した。
「一介の奴隷の身で望むのは、過ぎたる願いだと承知しております。」
ここから先はサイルとしてではなく、チャボラの…“彼”の同志としての自分の意志だ。本当に自分のやりたいようになら、どちらも譲れない。
「王太子殿下へのお目通りの取次をお願いします。どうしても、陛下にその目でご覧頂きたい現状があります。」
真っ直ぐ深く頭を下げる。カイがどう思うのか、不安になる部分もあるが、それでも引く気は無い。続けてサイルは自身の胸中を晒した。
「カイは、俺が大事だからと言ってくれた。他の誰がどうなろうとも俺が傷を負うのは嫌だと言ってくれた。それと同様に俺は、カイが無事であること、幸せでいてくれることを願っているし、彼らの…仲間の置かれている状況も、同等に改善したい。
どちらかなんて選びたくないし、どっちもなんだよ。大切なのは。」
欲張りだと呆れられても構わない。でももう諦めたくないから。揺ぎ無い瞳でサイルはカイを見つめた。
昔はこうして抱きしめられ、俺もこいつを抱きしめていた。
人の嗅覚は記憶を呼び起こさせる。匂いと言うものはこんなにも強力なのか。特に一度でも、愛おしく思った人間の匂いは忘れないものなのだろう。
”俺は、あなたの傍に居たい。あなたを愛してもいい…ですか”
そう呟くサイルの言葉に、ズキっと心が痛む。そう言ってお前は俺を捨てたのだろう。俺は何度も愛した、お前も愛していると言った。だけどふたを開けてみれば、俺だけがお前を愛していた。俺の一方通行で傲慢な思いだったはずだ。…もう、その言葉には、
そう思った時、サイルが離れた。どんな表情をしているのかと思えば、俺の知っているサイルよりもずいぶん幼い表情をしていた。いや、年相応と言うのが相応しいのか。
ただ、今までとは違う。取り繕った表情ではないことが俺でさえも分かる気がした。
「…気を遣わなくていい。本当に、お前の好きなようにしていいんだ。」
なのにどうして、俺はサイルの言葉に素直に答えられないのだろうか。
サイルの言葉を疑うように言ってしまうのだろうか。
…いや、怖いんだ。もうあの時の感情になることが。
だからこそ、俺は予防線を張るように問いかけた。
「俺の…自由にして、いいんですね?」
確かめるように、語気を強めて尋ねた。サイルは机越しにカイの真ん前に立ち、それから静かに腕を伸ばした。
仕事の邪魔になることは理解していた。が、遠慮する気にはなれなかった。引き寄せ包み込むように、サイルはカイの頭を抱きしめて、頬をすり寄せた。
「俺は、あなたの傍に居たい。あなたを愛してもいい…ですか」
拒まれても変わらない。例え拒まれても、カイを愛してることは何一つ変わらないのだから。
鼓動が高鳴る。きっとカイの耳にも届いてるだろう。ずっと、ずっと好きな人を、大切にしたい人を、何の柵も無くこうして抱き締めたかった。ただ、気持ちに素直に。その想いだけでの行動に移すことは、出来なかった。今までは。
もう、そうしてもいいんだと、自分自身に言える。きっとこれからはしていかなきゃならないし、出来るようになりたい。
カイに、愛してると信じて貰うのならば。
これ以上長く抱き締めていたら他の者の眼に映ってカイの迷惑になる。サイルは離れがたい気持ちを無理に押し込んで、惜しみながらその手を離した。一歩引いては、その場で立ち尽くしたまま下を向く。今頃になって顔が赤く紅潮してきた。なんて恥ずかしい事をしてしまったんだろう。焦る気持ちが余計にうなじを染めていく。
サイルはちらりとカイの方を上目遣いで盗み見た。
戦争が終わった今、無駄な戦いはもう御免だ。国王も同じ想いであるだろう。にもかかわらず、反逆心を抱き今も同じ過ちを繰り返そう者なら俺はいくらでも排除してやる。それに、…サイルをあんな辛い目に遭わせた人間をそのまま捕縛し、無駄に生かしておく方が余計だ。俺の本能が、あいつに危害を加えた人間を生かしておくなと言ったのだ。実際に止めを刺したのはサイルだが、俺はそれであいつから曇った表情がなくなるのであれば、正しい判断だったと俺は思う。
「…お前は何も気にするな。これからのことを、自由に考えてもらえればいい。…もとより、俺が勝手にお前を不憫に思ったから、一人にならないようにこうして立場を与え、ここに居させた。…全ては俺のわがままだったんだ。…この先は、ここに居ても離れても、好きな方を選んで進んでいきなさい。」
書類に走らせるペンを止めないまま、淡々と伝える。
俺にできることはここまでだ。俺はサイルに求められているわけでも、何かの力になれるわけでもない。できることとすれば、サイルを自由にさせることだけだ。
「…それで良いのですか?」
思わずカイに問い返してしまう。多分キゾン国の規律から考えれば、捕えて公の場で裁きを受けさせる筈だった。だからカイは奴を殺さなかったのだろうし、気絶させ、捕えた時点で任務を達成していた。
でも自分は、そんな事柄を無視して奴を殺した。少なくとも何らかの処罰を命じる立場の筈だ、カイは。
そう考えていたから、『安心して休め』と言われたのが腑に落ちなかった。
「俺は…罪ある奴隷の身でありながら主人である貴方の意向を無視して、あの男を殺しました。それで、俺を野放しにした事で、カイ…騎士団長様に懲戒処分が下らないかが心配なのです。」
もう、カイと元の関係に戻れなくてもいい。カイさえ無事でいてくれるなら。全部自分の勝手な行動の結末だから、もう一度一緒になりたいなんていう欲は言えない。
サイルは憂いを帯びた眼でカイを見つめた。それからゆっくりと静かに口を開く。
「それと。湯浴みさせてくれて…有難う、ございます。」
少しはにかみつつ、伏し目でサイルは呟いた。それは、こうやって自分を気遣ってくれるカイの優しさを、改めて強く感じたからだった。感謝と溢れんばかりの嬉しさが温まった体を再度包み込んでくれる。
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遅れていて済みません。クロードの「仕事一筋人間」が収まらん所為でクレア様の方の話が停滞して、時間がかかりそうなので、ひとまずこちらのロルだけ返しておきます。
なるべく早くクロードを祭休暇に投入させますので、もう暫くお時間下さい。
宜しくお願いします
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今日の一連の出来事の報告書を記載していた。これも国王へ報告しなければいけない事案となる。ペンを走らせているが、どこか心は虚無のままだ。今頃部下たちが部屋の後処理をし、サイルの面倒も見ている頃だろう。自分はここで凛々しく、堂々と、そして何事にも揺れることなく淡々と仕事をすればいい、しなければならない。なのに何度も何度もペンが止まる。
この心の穴に、心当たりがあるものの、目を背けたい。
そんな時、ドアが開いた。そこに立っていたのはサイルだった。彼の姿を一喝すると、
「…ゆっくり湯には浸かれたか?」
そう声を掛ける。その言葉にどう返答しようかと緊張し困っている様子だった。こうなったのも、俺がこいつを突き放したからだ。もう限界だと見放したのはこの俺だ。今更、…今更、何をしていいというのか。
再び書面に目を落とすと、
「…疲れただろう。安心する場所で休んでいなさい。」
と声を掛けて、俺は走りもしないペンを握り直した。
ロルの選択はどちらでも構いません。宜しくお願い致します。
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そう言われた新米騎士─ディーンは何食わぬ顔でサイルに近づいた。サイルの双眸が僅かに揺れたが、同じく何食わぬ顔でディーン…ハリに体を預け、共に浴室へ向かう。そして二人きりになった所で、両方とも本性を現した。
襲い掛かるハリに対し、躱してサイルはハリを抱き締めた。
「生きて…たんだな。」
「…っ!! 放せっ、」
裏切り者のアケ(サイル)に抑え込まれて歯噛みする。憎悪に匹敵する親しみの感情が、彼が生きていた事の喜びを強く押し上げてくる。それが悔しかった。
「《蛛鬼》は死んだ。皆に知らせて欲しい。」
ハリが此処にいるという事は、皆ある程度無事であるという事だ。それぞれの能力を鑑みれば問い質す必要はない。サイルは抱き締める事で体を抑え込んでいた腕を緩めた。直ぐにハリは飛び退き、態勢を整える。そんなハリをサイルは複雑な心情で見つめていた。
「何故…っ、裏切った?」
「…それで構わない。俺はもう皆の所には戻らない、から。」
カイの元に居られるなら、帰る場所はカイの傍だ。もし、居られなくなったとしても、もう自分には皆と共に暮らす資格は無い。その位の覚悟は疾うに出来ている。
サイルは服を脱ぐと、ハリに背を向け浴室へ向かった。そんな背中を二の足が踏めずに見送るハリの耳に、湯を浴びた後の倒れる音が響いて、慌てて後を追う。
「アケ!!」
「…大丈…夫だ、力が…ぬけた…だけ、」
張り詰めていた緊張の糸が切れて、限界をとっくに超えていた精神に連動する様に、体に力が入らなくなる。ハリに身を委ねると同時にそのままサイルは気を失った。
気を失ったアケ(サイル)を洗浄し、体を拭いて着替えさせ、屋敷の者に訊いてベッドへと寝かせた。そして、報告をしに騎士団長カイの元へ向かう。
もしカイ・アビーがアケ(サイル)を利用するつもりで飼っているのなら、皆の元へ連れ帰ろうと思った。これ以上彼を傷つけさせない為に。ハリは強い決意を固めていた。
カイと別れ、浴室へ連れて行かれたサイルは、湯浴みの準備をするよう促された。
「一人で大丈夫、ですか?」
気遣いながら声を掛けてくる新米騎士に短く肯定する。サイルは一人で服を脱ぐと浴室へ足を踏み入れた。
湯を浴びた途端、どっと疲れがサイルの身に押し寄せた。その場にヘタりこんで湯槽の縁にしがみつく。色々なものが、精神的にも肉体的にも一気に押し寄せてくるのがわかった。暫くは動く事ができず、湯気に体を当てるのが精一杯であった。
今頃になって、男に刃を突き立てた恐怖が込み上げてきたのだ。でも命を奪った手の感触は残っている。死んだ奴の顔もはっきりと目に焼き付いている。そして自分は生きているし、カイも無事だ。
じわりと喜びが押し寄せてきた。同時に虚無感もあった。けれど、本当に奇跡が起こったとサイルは心の底より感謝した。
湯で一先ず汚れを掛け流す。今の体力での限界だった。サイルにはそれで十分だった。浴室を出て用意された新しい服に着替えると、律儀に新米騎士が待っていた。
サイルは胸を張って、共にカイの元へと戻っていった。そしていざカイを前にして、サイルは緊張した面持ちで立っていた。
それから駆けつけてきた護衛たちは光景を見て「これは何事ですか?!」と声を上げた。
「…ベレアンの残存兵だ。まだベレアンの刺客が紛れてる可能性がある。徹底的に調べてくれ。…それから、ここの処理を頼む。」
それから1人の新米騎士にサイルの身柄を頼んだ。
「こいつを湯に浸からせてやってくれ」
「…だい…じょうぶ。アイツは…まだ生きてるんだろう?」
これだけ動けるなら、まだやれる。やらねばならない。頑なともいえるその意志が、今のサイルを突き動かしていた。短刀をカイの袂から抜き取ると、カイから離れ、窮鼠が噛みつくように拘束されている男の元へ走る。握った短刀の切っ先を、一直線に男の目合へ突き立てた。
脳幹まで刺さるよう深く押し込んだ刃が血にまみれ、自分の手も体も汚していく。サイルが短刀を抜き取ると、更に吹き出た血が床に血溜まりを作っていく。呆気ない、男の幕切れだった。
サイルは抜いた短刀を床に落とした。カイの立場ならこの状況を見過ごす訳に行かないだろうし、自分は処罰されても構わない。きっと只では済まないだろう。その結果が終わりを示しても…でも、もうこれで誰の命も脅かされなくて済む。
ゆっくりと肩の荷を下ろしていくようにサイルは力を抜いた。後はカイに委ねるつもりだった。
ただ、これで本当に最後になるのなら。その思いが過ると共にサイルは反射的にカイの元へ駆け寄り、唇を奪った。血濡れの自分の体がカイを汚さないように気を遣いながら、ただ一時一時を名残惜しむように、何度も繰り返して口付ける。
この時間が永遠に続けばいいのに。そんな希望を抱きながら。
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(補足加筆)
サイルからのキスは一方的に行っているものなので、カイ様が拒んでも問題ありません。
サイルなりに全ての決着をつけた気持ちなので、後は大人しく従います。
どちらかのロルを選んで応えて頂ければ幸いです。
何度も書き直して済みません。あとはカイ様にお任せします。
「…だい…じょうぶ。アイツは…まだ生きてるんだろう?」
これだけ動けるなら、まだやれる。やらねばならない。頑なともいえるその意志が、今のサイルを突き動かしていた。短刀をカイの袂から抜き取ると、カイから離れ、窮鼠が噛みつくように拘束されている男の元へ走る。握った短刀の切っ先を、一直線に男の目合へ突き立てた。
脳幹まで刺さるよう深く押し込んだ刃が血にまみれ、自分の手も体も汚していく。サイルが短刀を抜き取ると、更に吹き出た血が床に血溜まりを作っていく。呆気ない、男の幕切れだった。
サイルは抜いた短刀を床に落とした。カイの立場ならこの状況を見過ごす訳に行かないだろうし、自分は処罰されても構わない。きっと只では済まないだろう。その結果が終わりを示しても…でも、もうこれで誰の命も脅かされなくて済む。
ゆっくりと肩の荷を下ろしていくようにサイルは力を抜いた。後はカイに委ねるつもりだった。
ただ、これで本当に最後になるのなら。その思いが過ると共にサイルは反射的にカイの元へ駆け寄り、唇を奪っていた。血濡れの自分の体がカイを汚さないように気を遣いながら、ただ一時一時を名残惜しむように、何度も繰り返して口付ける。
この時間が永遠に続けばいいのに。そんな希望を抱きながら。
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サイルなりに全ての決着をつけた気持ちなので、後は大人しく従います。
どちらかのロルを選んで応えて頂ければ幸いです。
生きている。カイも、自分も。そして。
縋り付きながら、サイルはか細い声で呟いていた。
「あいつは? あいつは、死んだ?」
見開いている筈なのに、よく見えない。心臓の鼓動が大きすぎて、よく聞こえない。
凍り付いたままの顔情をカイに向けて、サイルは必死で問い掛けた。
恐らく男は…死んだか、気を失っている。カイの事だから、きっとあいつが逃げられないように拘束もしているだろう。
大丈夫だと思いたかったし、大丈夫、とカイに笑顔で応えたい。
だが、体は全く別の反応を示してくる。
気を失えれば、楽、なのだろう。けれど、逆立ったままの精神は鋭敏に感覚を研ぎ澄まさせ、サイルを蝕んだ。目も耳も役には立たないのに、男がまだ生きているのが感覚的にわかる。
『まぁガリガリになって餓死する様を見れねぇのは少し残念だが、お仲間のゴミ虫共を始末してきてやるからなァ。楽しみに待ってろ。』
聞こえる筈のない男の嘲笑う声が鮮明に耳に響く。途端にサイルは声を失った。
「……ァ……ッァ……」
カイ。どこにいる?伸ばした手が空を搔いて、拠り所を失う。体は腕に支えられている感触があるので、すぐそばにカイがいるとわかるけれど。不安がサイルの心に募っていく。大丈夫。だいじょうぶ。呪文のように何度も自分に言い聞かせても、もう誤魔化しは利かなかった。
---
極度の緊張でパニックを起こしているだけ…なので、いつかは回復する予定です。
(時間はかかりそうなんですが…)
話の方向性のご相談をしたいので、こちらのロルはひとまず(仮)入力…ということにして頂ければ有難いです。
「…!!」
サイルの顎完全に上向きになる前に、俺は男の頬を力いっぱいぶん殴る。その反動で吹き飛ばされた男は壁に頭を打ちつけた。こちらに顔を向けてから前に、すぐにもう一発、鳩尾に拳をめり込ませた。男は唾液混じりの血を吐き、やがて白目を向けて、その場に崩れ落ちた。腰元に忍ばせていた手錠を男の手首にかけ、片方は柱と紐付けた。完全に気を失っていたため、すんなりと拘束できた。
それからサイルの元へ行き、絡まれている意図を短刀で解いていく。体の自由が戻ったサイルを軽々と抱え、近くにそっと座らせた。
「…痛むところは、」」
そう問いかけながら軽くサイルの肌に触れながら彼の状態を確認した。表情は変わらず無表情のままだった。
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遅くなって、且つ短くてすみません、、
まだ言い終わらない内に、サイルは強く叫んだ。その瞳は縋る様に、助けを請うように必死で訴えている。カイと一瞬でも目が合うとすぐにサイルは自分を押さえつけている男に激しい憎悪を宿した眼差しを向けた。
カイを。カイの力を、信じると決めたのだ。サイルはカイの姿を見た瞬間、このままでは全員死ぬと、本能で理解した。それは、男に油断があってカイが此処に到達した訳じゃ無いと、身に染みていたからだ。そんな甘い相手ではない事は、サイルが誰よりも知っている。男が怪訝に顔を顰めた訳が、不審からではなく、侮蔑や嘲笑に近いものだと気付いて、余計にカイとの信頼関係を隠す意味を失った。
「ハッ!! こりゃあイイ!! テメェの情夫か、コイツは。」
男はカイの言葉を無視してサイルにそう言い放った。同時に広げた手腕から繋がる糸の先が、カイの足を絡めて引きずり下ろす。その流れのまま入口の扉が重々しい轟音を立てて閉じられた。
密室になった部屋に、男とカイとサイルの三人だけが閉じ込められた。
サイルはこの時を狙い澄ましたように、高音域の声を壁や入口の扉に向けて放った。勿論それは通常の人間に聞き取れる音域ではない。カイにもはっきりとはわからない筈だ。だが、男には糸を伝って振動が肉体に影響を及ぼす。
時間にして、それら全てが数秒…ほぼ同時の出来事。カイにしてみれば、体勢が崩されるのと、扉が閉まるのと、喚いた男が頭を抱えるのと、一度に起こったように見えただろう。
「うるさい!!黙りやがれ‼」
男の拳が容赦なくサイルの顎にめり込む。その僅かな一瞬の間、男に隙が出来ていた。
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怪訝に顔をしかめた男の胸中のご説明
ナニ自惚れてやがる?コイツ
たかだか目に見える仕掛(罠)糸を切った位で良い気になりやがってるな?バカか
・・・みたいな感じです。(そして男がカイ様をターゲットに加えることも…)
今見せているサイルの表情と眼差しは多分、カイ様が初めて眼にするものに当たるかもしれません。ここまで感情を顕にはしていなかったので(いつもは大体作られた表情)。
重く低い声が男とサイルのいる部屋に響き渡る。その声色からは声の主が何を考えているのか、分からないような、ただ圧を感じるほどだった。入口の扉はすでに開かれており、剣で糸を切り刻んだ後だと分かるほど、宙に細かな糸が待っていた。
男はこちらを見て、怪訝そうな表情を浮かべる。俺は淡々と、その表情から読み取れる相手の質問に答えた。
「……俺の敷地内で知らない男の声と、悲鳴が聞こえると報告を受けた。うまく潜り込んだようだが、…欲にまみれて、周りの警戒が緩んだんじゃないのか?…子ネズミ。」
そう言葉を吐き捨てる。サイルの方は一切見ようともしない。あいつにとっては面白い光景なのだろうが、俺にとっては何にも思えない、反吐が出そうな光景だ。わざわざ苦しくなるようなものを、自ら見ようとはしない。それがサイルの姿であるなら、尚更。
この部屋へ入るためにつながる入口の手前には数人の騎士が、その他逃げ場に利用しそうな経路にも数人配置している。敵がいると知って一人で来るほど馬鹿ではない。何でも全て、一人でやる必要はない。目の前にいる男の能力を警戒しているからこそ、仲間に助けを求めたのだ。
「…俺の使用人に手を出したのは、貴様だな。…目的はなんだ。」
「…っァ!!」
声を発する前に口元を特殊な糸で覆われる。気づいた時には既に糸が手足に巻き付いてもう自由が利かなかった。藻掻けばもがく程、締め付けられる糸に身動きが出来なくなる。
「本当に生きていたとはなァ。驚きだぜ。」
男は鋼糸でサイルを縛り上げると、わざとサイルの目に映るように姿を現した。
「《蛇哩》は疾くに(帝国を)見限って、今頃は新大陸へ向かっているさ。俺はまだ殺り足りないんでね。ゴミ掃除にわざわざキゾンへ来てやったんだよ。」
男は読書机下のラグに隠された地下扉を開けて、動けないサイルを突き落とす。暫くして降りてくると、地下扉を閉めた。本棚を引き倒し、中身を放り出して棚に糸でサイルの体を括り付ける。
首に巻き付けられた糸が擦れて、血が滲む。刃で切られたようにサイルの首周りは一周赤い血の筋が出来ていた。実際、男がその気なら簡単にサイルの首が床に転がっていてもおかしくはない。
「テメェの使い心地は気に入ってたんだぜ? 悦びな?」
そう言うと、口を塞いでいた糸を外し、ズボンをずり下して股間を露わにする。最悪の相手を前に、サイルは頭が真っ白になった。恐怖と混乱とで取るべき行動がわからない。すぐにそんな思考をも奪う暴虐がサイルの肛穴を穿った。
「ィぃいあああぁぁっ!!!!」
裂けてしまうんじゃないかと思う程の痛みと圧迫感に、サイルは悲鳴を上げた。容赦無く打ち付けられる剛直に痙攣し体が粉々に壊れてしまう気さえした。それでも、執拗に舐められる耳許やうなじの所為で、肉体は淫虐に順応していく。
「おっと、善がるんじゃねぇよ。冷めちまうだろ。」
冷酷に見下す眼眸が感情ごと食らい尽す肉食獣の如く、サイルを蹂躙する。
助けて、と一瞬思い浮かべたカイの顔にサイルは涙を零した。巻き込みたくない、無事でいてほしい、もう一度会いたい、生きていてくれ!! と目まぐるしいカイへの感情の渦に、サイルは自身の最期を覚悟した。この男の毒牙がカイに向かない事だけを祈って。
「ぃ!!ぐっ!!ッあああぁ……ァヒィィッ!!」
「…っァ!!」
声を発する前に口元を特殊な糸で覆われる。気づいた時には既に糸が手足に巻き付いてもう自由が利かなかった。藻掻けばもがく程、締め付けられる糸に身動きが出来なくなる。
「本当に生きていたとはなァ。驚きだぜ。」
男は鋼糸でサイルを縛り上げると、わざとサイルの目に映るように姿を現した。
「《蛇哩》は疾くに(帝国を)見限って、今頃は新大陸へ向かっているさ。俺はまだ殺り足りないんでね。ゴミ掃除にわざわざキゾンへ来てやったんだよ。」
男は読書机下のラグに隠された地下扉を開けて、動けないサイルを突き落とす。暫くして降りてくると、地下扉を閉めた。本棚を引き倒し、中身を放り出して棚に糸でサイルの体を括り付ける。
首に巻き付けられた糸が擦れて、血が滲む。刃で切られたようにサイルの首周りは一周赤い血の筋が出来ていた。実際、男がその気なら簡単にサイルの首が床に転がっていてもおかしくはない。
「テメェの使い心地は気に入ってたんだぜ? 悦びな?」
そう言うと、口を塞いでいた糸を外し、ズボンをずり下して股間を露わにする。最悪の相手を前に、サイルは頭が真っ白になった。恐怖と混乱とで取るべき行動がわからない。すぐにそんな思考をも奪う暴虐がサイルの肛穴を穿った。
「ィぃいあああぁぁっ!!!!」
裂けてしまうんじゃないかと思う程の痛みと圧迫感に、サイルは悲鳴を上げた。容赦無く打ち付けられる剛直に痙攣し体が粉々に壊れてしまう気さえした。それでも、執拗に舐められる耳許やうなじの所為で、肉体は淫虐に順応していく。
「おっと、善がるんじゃねぇよ。冷めちまうだろ。」
冷酷に見下す眼眸が感情ごと食らい尽す肉食獣の如く、サイルを蹂躙する。
助けて、と一瞬思い浮かべたカイの顔にサイルは涙を零した。巻き込みたくない、無事でいてほしい、もう一度会いたい、生きていてくれ!! と目まぐるしいカイへの感情の渦に、サイルは自身の最期を覚悟した。この男の毒牙がカイに向かない事だけを祈って。
「ぃ!!ぐっ!!ッあああぁ……ァヒィィッ!!」
今まででなら、帰ればあいつがいた。手一杯に抱きしめると、嬉しそうに笑って俺を見てくれていた。その瞳に嘘はないんだと、分かるほどに。だから、俺は少しずつあいつが心を開いて、俺を見てくれるようになったのだと過信していた。…少しでも、あいつの拠り所になれている気がしていた、だけだった。
本当のところはあいつから信頼されていなかった。…俺だけが、あいつを好きだった。
どれだけ好意を示しても、愛し合えるように優しく抱いても。あいつは苦しそうなままだった。もっと頼ってほしかった、俺はお前が好きで、いつでも頼っていい存在なのだと、分かってほしかった。口下手な俺でも努力していた、つもりだった。…でもそれが、何もかも間違っていたようだ。
書斎で仕事を進めていれば、窓からサイルの姿が見えた。あいつもあいつで、仕事をこなしているようだった。あれから男を連れ込んでいるなどの話は上がって来なかった。ちゃんと、己を大事にし始めたのだろうか。その傾向が少しだけでも見られるようになったのなら、大万歳…な、はずなのだ。
ただ、このぽっかり空いた穴を埋めてくれる人が欲しいと。それが、お前であって欲しいと。願ってしまうのは、酷い話だろう。
_____________________________
決して嫌いになったわけではないこと、伝わればと思います。
気怠さに、息をするのさえ億劫になる。サイルは疲弊した心身を起こし、澱んだままの空気に肺を晒した。
そう。始めからカイの傍にいる為に俺がすべき事なんて、たった一つしかなかったんだ。吐き出す息にも、吸い込む空気にも、送り出す鼓動にも、巡る命の源にも、カイが愛してくれた、大事にしてくれた生命そのものを愛しむ様に掻き抱く。そうして自身の事を見つめ直して辿り着く結論に、サイルは言葉を吐くこともなく受け入れた。
己の心を殺すこと。
細く長く、静かに息を吐き出すと、サイルは虚ろに開いていた眼を再び閉じた。
----
短くて済みません。
この後の展開についてなのですが。どうにも上手くいかず、迷っております。
サイルがカイ様から行方をくらませば、その件で王太子から呼び出しを食らいますし。
もし、カイ様の元に戻ったならば何食わぬ顔して傍に付き従います。ただしその場合は他者に対しての排除が容赦なくなるので、私的には「この子終わってしまったなー」という状態になりそうで…。
誠に勝手で申し訳ないのですが、カイ様から見た(サイルの)状態がどういった形になるか、示して頂けるととても有難いです。
どうか宜しくお願い致します
気怠さに、息をするのさえ億劫になる。サイルは疲弊した心身を起こし、澱んだままの空気に肺を晒した。
そう。始めからカイの傍にいる為に俺がすべき事なんて、たった一つしかなかったんだ。吐き出す息にも、吸い込む空気にも、送り出す鼓動にも、巡る命の源にも、カイが愛してくれた、大事にしてくれた生命そのものを、掻き抱く。そうして自身の事を見つめ直して辿り着く結論に、言葉を吐くこともなく受け入れる。
己の心を殺すこと。
細く長く、静かに息を吐き出すと、サイルは虚ろに開いていた眼を再び閉じた。
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短くて済みません。
この後の展開についてなのですが。どうにも上手くいかず、迷っております。
サイルがカイ様から行方をくらませば、その件で王太子から呼び出しを食らいますし。
もし、カイ様の元に戻ったならば何食わぬ顔して傍に付き従います。ただしその場合は他者に対しての排除が容赦なくなるので、私的には「この子終わってしまったなー」という状態になりそうで…。
誠に勝手で申し訳ないのですが、カイ様から見た(サイルの)状態がどういった形になるか、示して頂けるととても有難いです。
どうか宜しくお願い致します。
じゃぁ何のために俺はこいつの上に乗っているんだろう。何度抱きしめて、口付けをしたのだろう。あの夜、身体を重ねたのだろう。…なんで、好きだと伝えているのだろう。どれもこれも、俺の自己満足に過ぎなかったのか。
俺は這わせていた唇を離した。もう、…もう、限界だ。
「………俺はお前にとって、その程度の存在にしか、なれないんだな。」
俺はゆっくりとサイルの上から降りた。
「もうお前が屋敷で何をしようと、ここに居ようが逃げよう、構わない。好きにしてくれ。不満になったら、そこら辺の男とでも寝てればいい。風邪だけは、引くなよ。」
俺はサイルの居場所になりたかった。安心して休めるような、信頼できるような存在になりたかった。そのために尽くしてきたつもりだし、愛情が伝わる様に何度も何度も言葉と行動で示してきたつもりだ。でも、それはただのエゴに過ぎなかったのだ。
それだけ言い残すと、俺はサイルを残して部屋を後にした。
「カイ、…俺は、死なないんだよ。どんなに酷い扱いされても。どんなに死にかけていても。」
それが、誰かに護られていたからだと理解していても、(俺を護る)その所為で守ってくれてた人の命が失われるのは、もう耐えられない。
誰の命も脅かされない世界になれば、どんなに幸せだろうか。
優しいカイの口唇を、その伝う指先の繊細さを感じながら、サイルは震える手で彼にしがみついた。縋れば縋るだけ、カイ自身の命を死に追いやるのではないかという不安に怯えて、サイルは体を強張らせた。
どのみち皆の助力を得なければ、組織を壊滅…せめて排除するだけでも、敵わない。それだけ存在が陰湿で決して表には出て来ず、何処までも執拗に追い詰めてくる。死ぬまで孤独に逃げ続ける…か、孤独に逃げても、向こうは僅かな関係の持った相手を次々と消し去ってしまう恐ろしい存在なのに。
「…死なないで…くれよ、…カイ。…俺に…優しくなんて…しなくていい。
もう誰の命も奪わせたくない。奪われるのなら、俺一人で十分だ。」
しゃくりながら、サイルは涙が溢れる顔を手で覆い隠した。それがカイの想いとは真逆の、酷い言葉だと分かっているから。今のサイルには、カイから向けられる双眸を直視する勇気を持てなかった。例えそれ(眼差し)が慈愛でも、落胆でも憐憫でも、いっそ怒るか呆れられた方が…元の道具に戻るだけと安堵しそうな自分の醜さが浮き彫りにされる、そんな怖さと悔しさで、既に気持ちはぐちゃぐちゃになっていた。
----
弱味を曝け出して、肉体の方もぐすぐすに蕩け切っております。
「お前は?」
と言葉を被せる。カイもまた、真剣な眼差しで、そしてどこか愛おしさを懇願するような瞳でサイルを見つめていた。
「その願いはお前の身の安全が確保されてからだ。正直に言う、お前が救って欲しいという人々の命よりも、お前のことが何より大事だ。勿論、お前が言うなら、彼らを救う手伝いはしよう。だが、お前を失うなら、俺は彼らを見捨ててでもお前を守りたい。」
遠回しに伝えても曖昧に交わされるだけ。これくらい直接言わないと、君はわかってくれないだろう。俺は今どんな表情でこの言葉を伝えているんだか。鏡があっても見たくない。
「…なぁ、俺の気持ちは、いつになったら君にちゃんと届くんだ、」
サイルの頬を撫でながら寂しそうな口調で言葉を紡ぐ。伏せ目がちな瞳は色気を感じる。そして優しく口付けをすれば、その唇をサイルの首元へ這わせて行った。
サイルは自分から接吻をし返すと、優しく、そして強くカイを抱き締めた。
「カイ。中枢部の連中は自分達の事しか考えていない。俺以外にも奴等の犬のままでいる仲間だって、まだまだいる。奴等には、戦争でさえ道具に過ぎないんだ。」
囁くように耳元でそうカイに告げると、サイルはカイの体を押し上げ、自身も身を起こした。真剣にカイを見つめる。もう、後には引けないのにそれでも本当にカイを巻き込んでしまって良いのか。惑う思いが未だにサイルの中には存在した。
それを振り払うように瞼を閉じ、静かに息を吐くとサイルは眼差しを伏せたまま、自分の考えを打ち明ける。
「奴等は恐らく裏切り者の俺を処刑しに刺客を放ってくる。それに此処キゾンにもチャボラは存在する。奴等が放っておくと俺には思えない。」
享楽を貪る為に、選民を煽り、利用する。己の利に適う者なら何であれ利用する。キゾンの王国も同類だと刷り込まされてきた。でも、違う。それがはっきりと理解ったから。
うつ向き気味に、それでもサイルはカイを見つめた。この先は、今まで以上に命の危険に晒される。虫の良い話だと呆れられるかもしれない。むしろ何処かで、そう拒まれた方が気持ちは楽になる、とさえ思ってしまう。そうすればカイを巻き込まずに済むのだから。
「カイ。力を…貸して欲しいんだ。俺はチャボラの皆を助けたい。」
今度はちゃんと顔を上げて、カイにお願いした。
----
それでも言葉通りの「助けて」と「どうか断って」の心情とで矛盾しまくり・・・のサイルの双眸はウルウル揺れてます。
相変わらず自分の命は頭数に入れてない子なので、遠慮無く身体に分からせてヤってください。
「サイル。…これは、…」
問いただそうとしても、口が回らない。すると、サイルの方から答えを提示してくる。それを俺は黙って聞くことしかできなかった。
…工作員。それは彼を拘束したあの日から知っていたことだったが、これほど機密は情報は知らなかった。今となってはもう不要な情報だと認識している。ほぼ壊滅状態で国の再建で精いっぱいなベレアンに、そんな組織がまだ動いていられるとは思っていない。それに戦争は終わったのだ、情報を絞り出すために彼を溺愛しているわけではない、俺の心が彼を愛している。
動けるようになったその瞬間に、俺は立ち上がってサイルをもう一度抱き締める。まだ喋れるほど口周りの筋肉は戻っていないが、そのまま彼を抱え、近くにあった簡易ベットに寝かせる。ここで作業する人間のことを考えて、休息できる場所を用意していたのだろう。
そのまま彼の目を見つめながら、優しく頭を撫で続ける。何も、手を出そうとはしない。今までそうやって言いなりになってきたというのだから、俺は俺の意思で彼の傍にいることを分かってほしかった。
そして口元の取れた時、先ほどのサイルと同じように優しく唇を重ね始めた。
_____________
結局、手出してますね←
カイの腕が少し緩んだ隙に、自分の腕を抜き出してサイルは彼の首筋に抱きついた。何度も何度も口唇を重ねて舌を深く絡ませて、ゆっくりと口を離して抱き付いたまま、サイルはカイの目を見ながら囁いた。
「…カイ。俺に『何をした』のか、訊いてましたよね? …これが、その答えです。」
ツプ、と針がカイの首筋に刺さる。本当はちゃんとカイの同意を得て打つつもりだった。例の場所へ行く前の準備として抗体を作って貰う為に。針には弱毒性の薬が塗ってある。決して死ぬ事は無いが、一時的だが体が痺れて動けなくなる代物だ。勿論、塗布する薬物如何では相手を殺す事も可能。
カイから離れて向き合うと、サイルは一人淡々と口を開いた。
「ベレアン帝国諜報部内でも、より秘匿された組織があるのを知っていますか。」
話す事が出来ないであろうと承知の上で、サイルはカイに話を振った。そしてそのまま一人語りを続けていく。自分がどんな顔でカイに語っているのか、わからない。でも淡々とサイルは言葉を続けた。
「選範部隊…という言われ方もありますが。要は帝国に強制的に魂を売らされたチャボラ出身の工作員です。ランクはAから始まり、訓練を受け、こなす任務の難易度毎に階級が上がっていく。Fランクからは本格的に、I以上は完全な駒として扱われる。
俺はPランクの…仲間の粛清も担う、綱紀部署の犬、だったんですよ。」
自嘲する口角が酷く歪んでいる。自分でもそう感じる程、引き攣った顔情が痛い。
「文字通り、ベレアン中枢部に肉体も意思も弄ばれる、玩具だった。」
それでチャボラの皆を護れるなら、と思っていた。どんなに酷い扱いであっても、どんなに酷い仕打ちを受けても、ベレアンに居た頃はそれ以外が赦される立場では無かったから。
奴らの言う“自由”の先を知って、ハリが死んで、ただ洪水で命が奪われるのを止めたいと願ったあの時に、本当に死んでもいいと思った。任務の為にじゃなく、生きている事に諦めがついたから。
「俺は…こんな…穢くて汚れたヤツ、なんです。男に媚びを売るのが当たり前の…」
今は、本当の意味で元の世界には帰れない理由がわかる気がする。
気がつけば、俺はサイルをそっと抱きしめていた。
「……何も言わなくていい。でも頼む。嫌でも、しばらくこうさせてくれ。」
サイルの匂いを、その温かさと心音を感じていたかった。他に邪魔されることのない2人だけの空間で、夜とは異なる甘えた声で、俺はサイルを抱きしめる腕に力を込めていた。何度も腕を緩ませれば、ぎゅっと抱きしめる。彼がいる存在を確かめるように抱擁した。
-----------
短くてすみません、、
カイを押し退けて、サイルは顔を合わせられぬまま一言彼に告げた。
「…入り口、閉めてきます。」
立ち上がって書庫のある入り口へと向かい、手前で足を止めた。そうして息を止めて耳を澄ます。僅かに開いた口唇から高音域の超音波に近いものを発し、人の気配を改めて探る。幸い、カイ以外いないようだ。
サイルは内側から入り口を閉めると、カイが居る実験室へと戻っていった。
何を言おうか、何から話そうか、迷ってしまってやはり真面にカイの顔を見れそうにない。そう思うと急に足取りが重くなってしまった。
カイが此処に辿り着いてくれたのは素直に嬉しいし、何よりも、暗殺者の手をカイに向けてしまった、その事が今のサイルには堪えていた。護ると自身に決めたのに、反して命を奪いかけた事が、己に掛けられた運命の呪いのようで、抗えない悔しさと憤りと悲しさが一気に胸中に押し寄せる。
部屋の前に来ると、扉の合間からカイの姿が見える。話したい事、話さなければならない事、それぞれにサイルの胸中にはあった。そして、うつ向き気味にサイルは部屋の中へ足を踏み入れた。
------
この後サイルは自身の生い立ちを話す予定です。(組織のことも含めで)
「………?!…サイル…?」
相手を地面に押し込み、動けないように拘束しながら体重をかけた時。その相手がサイルだということにやっと気づいた。何故ここにいるのか、そう聞きたくなったが、そもそもここに辿り着いたのも、サイルが渡してきた石のかけらのおかげだった。ここを知っているのもおかしくはないことだ。
「…俺に気づいて欲しかったんだろ、ここを。…お前のヒントを頼りに、見つけたんだぞ。」
クロードのシーバック家が軍人一族なら、差し詰めこのクノック家は学者の家系だったかもしれない。薬効のある素材も多く、動植物に限らず鉱物資料まで豊富にある。専門的な器具の多さから、より複雑な実験をここでは行っていただろう事が窺える。
鉱毒に関するデータもきちんと取られていた。同時に毒の緩和に役立ちそうなデータもあって、これが人を助ける為に研究されていた事を偲ばせる。
そんな風に物思いに耽っていたサイルは、近づいてくる気配に気付くのが遅れた。慌てて備品倉庫へ身を隠し、相手が入ってくる直前で襲い掛かる。
「…っ!?」
その時初めて、それがカイであることに気づいたのだ。
----
短くて済みません。思い切り、命を奪いに襲い掛かってしまってるので、どうか怪我の無い様避けてもらえれば幸いです。(その位は朝飯前だと、カイ様の能力信じておりますので)
「…いつもありがとう、いただきます。」
ゆっくり堪能した後は、屋敷とその敷地内を散策する。もとはクロード様がいらっしゃった場所。あの人は今もお元気でいらっしゃるだろうか。そう想いを馳せながら敷地内を散策した。やがて一つの小屋に辿り着く。サイルが男といたという場所だ。あいつはここに男を誘って、…。考えるだけで嫌になった。ここはもう少し時間が経ってから足を踏み入れよう。
そして屋敷に戻り、あまり踏み入れたことのなかった奥の部屋へと足を進める。何もない殺風景な部屋だったが、部屋の隅に転がる石を見て思い出す。あの日、サイルに渡された石と同じもののようだった。彼は何かを見つけている。ここがそうなのかもしれない。それを辿って壁に触れると、ガタっと音を立てて壁に人一人が取れるほどの通路が現れた。うす暗く、気持ちばかりの照明が上から垂れている。俺は恐る恐る、その通路に足を踏み入れ、奥へと進んでいった。
はやる気持ちを落ち着けようとするも、ハリは動揺していた。懸命に意識を案内と指示をしてくる軍人に向け、もう一人の新人と共にその後についていく。話の内容の感じからきっと、これから先の自分達の上司になるんだろうと、漠然と思いながらそれでも気持ちはどうやったらもっと上の人物に繋がるか、必死で考えていた。
大方の手続きと指示された命令をこなし、初日が終わろうとしていた。ハリは周囲と馴染むように行動を取っていたが、半分は手に付いていない。どうしても、もう一度あの騎士団長に接触したい、とそればかりが脳裏に渦巻いて離れなかった。
けれど、どんな理由で近づくのか。何も思いつかなかった。いっその事、秘かに後を付けて屋敷に潜り込む方が早いのかも。そんな事ばかりが逡巡して最後の最後でミスをする。
「…申し訳ございません。」
簡単な訓練につまずいて、ハリは周囲に頭を下げた。
________
その日の業務が終わる辺りだと考えて頂けると有り難いです。
このままハリの事はスルーして、翌日の休日に入って貰って構いません。(ハリのお持ち帰りも可能です)
日中鉱山を視察すれば、奥にはサイルがいますし、行かずに帰宅する頃には、サイルも自室に戻っております。(夜のサイルは従順です)
門が開き、彼らの姿が見えた。ちゃんと話し合って決めた人物と同じ人間が立っていた。ここからでは彼らの様子が分からない。外観だけがある程度見えていて、人物を認識できる程度。緊張しているのか、それとも期待に胸を膨らませているのか、そこまでは分からない。
ただ。一人の人間と目が合ったのが分かった。大柄な男とは対照的に華奢に見える、俺が最初に目をつけた青年だ。こちらを見ている。
不思議に思い数秒目を合わせるも、自分の方から目を外し、部屋の奥へと入って行った。
翌早朝、カイをそっと物陰から見送って、サイルは人目を避けるように書庫へと移動した。石造りの頑丈な建物は庭園の壁の一部と同化していて、それ自体が別棟になっていることに気づき難い。外からも屋敷内からも入る事は出来るものの、表向きに置かれているのは国の歴史や領地の風土、クノック家の歴史など、他でも見られるものばかりだった。
そこから隠し部屋へ入り、更に坑道のような地下通路を、途中…実験動物を閉じ込めていたのだろう檻を横目に進めば、また扉が設けられていて、3つ程潜り抜けた先、空気の流れと共に微かに人の声が聞こえてきた。もうすぐ鉱山の旧坑道に出る。
鉱山に設けられた縦抗の内、今は換気用として残されている古い縦坑の傍に出口はあった。すぐ隣にある倉庫代わりのガラクタ置き場に紛れるように、ひっそりと隠されている。サイルはその出口手前で腰を下ろし、近づく足音に耳を傾けた。
呼び出しを受けたハリは昨日と同様に服装を整え、門の前で待機していた。とはいえ試験であった昨日と違い、勝手に中に入る訳にはいかない。いくら招集令状があってもまだ正式に任命されたわけじゃないからだ。もう一人、同じように緊張した面持ちで門を眺めている人がいる。
どうにか最初の関門は突破できた。今日これからいよいよ本命のターゲットに近づく。カイ・アビー…現第五位騎士団長にして、前の戦争終結の立役者。今の地位に就く前は尋問官として数多のスパイを拷問してきた男。絶対に正体を見抜かれないようにしないと。
強い眼差しで、門の先…奥の建物の上階にいるターゲットに視線を送った。
________
地下実験室に行きつくまでの行程は、仕掛け含めてあまりに長いので。「~なろう」のログで確認していただけたら助かります。
ハリは緊張してますが、きっとカイ様をガン見すると思われますので、良しなに扱って頂ければ幸いです。
(初めてでわからないことだらけで戸惑ってる、とかいう感じ。でも「誠心誠意、国の力となれるようお仕えします」ので)
「……そんなもの、もう必要ないだろ」
サイルは何かを託して俺を拒絶する。貞操具なんて何故彼につける必要があるのか。また尋問でもするとでも、?彼が正直に話してくれれば必要のない物だ。話してくれなくたって、無理に聞き出そうと繋ぎ止めることはしたくない。どうしてこうも、うまくいかないんだ。
渡された物の使い道はよく分からない。この屋敷のことを全て把握しきれていない。近辺にある小屋や土地のことさえも見回れていないほど、多忙な日々に追われていたからだ。
「………分かった、お休み。」
何か言葉をかけるべきかと考えたが、今のサイルに伝わる気配がなかった。自分に被せられていた毛布を彼に二重に掛けるようにすると、ゆっくり部屋を後にした。
明後日になればようやく時間が空く。頂いたこの屋敷と敷地の探索に勤しもう。
「…真に…許すのは、貴方だけだ。」
聞こえたかどうかもわからない小声で呟く。本当は、カイ、と名前を続けたかった。俺が身も心も許すのは、カイ、貴方にだけ…と。
そんな表情を見せたのも束の間、サイルは一歩身を引き、慇懃に礼をしながら述べた。
「旦那様。ならば自分に閂を掛けて下さい。表通りの宝飾店でも取り扱っております。」
それは隠語だ。宝飾店で取り扱うそれが示すのは、則ち貞操具。その事をカイが知っているかはどうかは、どうでもいい。自分がどんな目に遭おうとも、カイだけは護ると心に決めている。今の段階では、自分が娼婦のように振舞う限り、カイを裏切るような行為に見取られる限り、組織に自分とカイとの恋愛関係を疑われずに済めばそれで充分だ。
その先にあるのが破綻であっても。そう考えたサイルの心が僅かに震える。畳みかける様に、サイルは言葉を続けた。
「旦那様。今宵は遅うございます。どうかもうお休み下さい。」
言いながらカイの手を取り両手で包み込んだ。その時小さな石の欠片をカイに握らせる。それは昼間に見つけた秘密の部屋から持ち出した、坑道の石だった。その部屋が坑道と密かに繋がっている事も確認してある。部屋に残されていたメモ紙の速読で、その部屋が実験室として使われていただろうことも、他人に気付かれぬよう管理されていた事も、サイルは理解した。石を見て、カイが気付いてくれれば坑道からでも案内できる。
「人心を惑わさぬよう、明日は人目を避けて大人しくしておりますので、今宵はどうか御容赦願います。」
そう言って、サイルはカイを拒絶した。
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ルート①.貞操具は箱のまま販売されてます。モノがモノだけに確認は自宅で宜しく、という代物。
ルート②.いつもの鉱山の坑道と繋がっていて出入り口は迷路化。ある程度の場所まで来ればサイルがお出迎えします。
サイルは朝から屋敷の者にも見つからない状態で、(とある)部屋に籠っております。夕暮れには自室に戻る予定。
面倒な子(←サイル)ですが、どうか宜しくお願いします
彼の耳元でやや低温ボイスを響かせながら囁いた。まるで誘惑するような所作にぴくッと眉を動かす。こうやって男を誘導したのか。情報収集だとはいえ、”主人”がいるにも関わらず勝手なことを。それも自分を売るような手口を仕掛けているなんて。もうそんなことから足を洗ってほしいのが、伝わらないのか。
俺の言葉にサイルが心当たりのありそうな表情を浮かべたところを見逃さなかった。そのまま耳をなぞる様に舌で這わせた。それから脳内に響くように唾液の音を与えながら耳を舐める。その後、少し口元をずらし、首筋にキスを施す。サイルが少しずつ声を漏らしかけるところで、俺は口を離した。
「…今日、君と商人の男が小屋にいたことを聞いている。男の具合が悪そうだからと君が小屋に運んだようだが、…男は君に誘われたと言っていたそうだ。…一体、君は何をしたんだ? 本当のことを言え。…じゃなければ、この続きはしない。」
「仕事です。情報収集。」
いつもの事だし、いつものやり方だ。サイルが娼婦の真似事をして情報を集めるのを組織の連中も知っている。カイとの真の関係を知られていないなら、連中を誘き出すのに最も適したやり方だ。だから何の違和感もなくサイルはそうカイに答えた。
「それより良い場所を見つけたんです。そこなら気兼ねなく。」
皆まで言わずにそっとカイの唇を撫で、サイルは自分の唇の前に人差し指を立てた。誰にも気付かれない秘密の小部屋、といえるような場所だ。そこでならカイに自分の生い立ちも、組織での事も、"彼"らの事もちゃんと打ち明けられる。
信頼しているからこそ、きちんと話しておきたい。話して全てを受け入れて貰えるかどうか、サイルにも不安が残るけれど。
「旦那様の御身体が冷えてしまっては一大事です。どうぞ旦那様も中へお入り下さい。」
そう言って、サイルは掛けてもらった毛布を同じくカイの頭にも掛けて、二人で包まる形を取り、より声が零れぬように顔を密着させた。
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ロルの長さは気にしておりません。いつも充分な位美味しく提供して頂いて、こちらこそ感謝致しております。
(この場面は、200字切っていても大丈夫ですよ。カイ様の求めた答えとサイルの出した答えが違っているので)
きっと、ちゃんと問い詰めないと、カイ様の意図がサイルには届きません。
今の時点ではまだ、最悪の…自分がいなくなってもカイ様に危険が及ばないようにカモフラージュする逃げ道を作ってます(←サイルの職業的性分な?)ので。
どこかで早めに組織の追手を出してやらないと、サイルのこの性分は落ち着かないかも? なので、その際はどうかご助力して頂ければ助かります。
「この夜更かしさんめ。…俺を待ってたのか?」
そう言ってそばに置いてあった毛布を彼の頭から被せる。ヒョコッと覗き込んできた彼の頬を挟むように包めば、顔を近づけた。鼻先と鼻先が今にもくっつきそうなくらいに顔を近づけると、彼もまた嬉しそうに微笑むので、俺は軽くチュッとキスをする。悔しいな、こいつの顔を見てしまうと気持ちが緩んでしまうが、ちゃんと聞き出さねばならない。
「……なぁサイル。惚けるなよ? 俺がいない間、何してたんだ」
短くなってしまってすみません、、
本年はとてもお世話なりました◯
ナナヤ様とのチャットは本当に楽しくて、とても大好きな時間でした。
来年もゆっくりで構いませんので、お付き合いくださると嬉しいです。
では、よいお年をお迎えください!
今日、一日中動き回って組織の影を探したが掴めなかった。だが、それなりに収穫はあった。そのことを早くカイに伝えたくて、気持ちはずっと疼いていた。何よりカイに会えるのが純粋に嬉しい。そういう気持ちが漸くサイルの心にも芽生え始めていた。
そわそわと扉が開くのを待つ。大して変わらないが身形を直してみたり、髪を整えてみたり、座っていられなくて立ってみたりと、完全に浮足立っている。
扉の前へ足音が辿り着くと、より緊張した面持ちに変わった。何から話そうか、そんな些末な事にときめいている。それでも会話が制限されるこの部屋では、思う存分には話せない。まずはやはり例の部屋の存在をカイに知らせて、それから二人きりで色々と話がしたい。“彼”の元へ赴く前にきちんと説明はしておきたいから。
サイルは待ち切れない思いに翻弄されながら、息を詰めて扉を凝視していた。
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ノックがあれば「どうぞ」で返すし、入ってくれば第一声「お帰りなさいませ、ご主人様」…といったところでしょうか。サイルの行動は。
表情としては緊張気味ですが、紅潮し興奮気味とも。今までと違ってテンション高めです。
遅くなりました。ロル短めですが、此処からサイルがより懐いていきます。
どうぞ可愛がってやってくださいまし。何でもサイルは甘んじてお受けします。
そして、
年中は有難うございました。また来年も宜しくお願い致します。
「…では、皆の意見を踏まえ、この2名を合格とする。…明日、彼らを招けるよう手配を進めてくれ。」
そう言って2名の資料を皆の前に提示する。その一人は、俺が最初に目をつけていた例の青年だった。
______________________________
屋敷に帰宅するとメイド長のみ対応してくれた。夜分遅くに帰ったにもかかわらず、他のメイドたちは休ませ、己のみで身支度を整えてくる。優秀な方だ、そう思ったのも束の間、酷く疲れていそうな表情をしているのが分かった。
「…もう休みなさい。あとは自分でできるから。」
「そうではないんです、…あの、ご主人様にお伝えしなければと思ったことが、ありまして。」
そこで口にされたメイドの言葉に、俺は怪訝そうな表情を浮かべるしかできなかった。理性と感情のコントロールに必死になっていることを悟られまいと。「分かった。あとは直接聞く。」と告げ、軽く汗を流し終えると寝巻の姿で、サイルのいる部屋へ向かった。
前半の個人戦での自分の注視能力が甘かったと、問題点を分析しつつ今は結果を待ちながら今後のことを漠然と考えていた。
首尾よく入団出来ればいい。けれどもし落ちたなら、どうしようか。
きっとアケ(サイル)ならこんなミスはしないだろう。自分よりも遥かに優秀だった同志の事を思い出し、哀愁の念に駆られて歎息を漏らした。敵に捕まったと聞いている。仲間を裏切ったとも言われている。それが本当かどうか確かめくて、恩賞で与えられた捕虜を奴隷にしているという新任の騎士団長に近づきたかった。
もしその捕虜がアケで無いなら、彼が仲間を裏切ったなんてのはきっと嘘だ。そうに決まっている。彼ほど故郷を思って死力を尽くしてきた人はいない。そんな彼が洪水を起こさせる筈がない。ハリはずっと、そう信じていた。
________
サイルが気を失った商人の体を支え、誤魔化しが利く様ゆっくりと傍の椅子に座らせると、案の定、タイミング良く屋敷のメイドや使用人達に見つかった。
「どうされたのです。」
「あの…彼の顔色が少し悪かったので、少し休まれてはと小屋にお連れしたら、余程疲れていたみたいで…」
小屋に入る所を見られていたか。入ってきたメイド長の訝しぐ声に、勘繰られている感を受ける。誘ったのを見られていたとしても、噂で情報が広がればそれはそれで構わない。
もし既に屋敷内に潜入しているなら、接触してくる可能性はある。
取り繕う傍らで、サイルは猜疑心にまみれた心眼を周囲に向けていた。それはかつての諜報員時代の姿そのもので、誰も信じず利用できるものは何でも利用する、狡猾さに満ちていた。
弱い立場を利用して、メイド長の真情へ訴える。サイルはメイド長が後処理を引き受けるよう仕向けると、何食わぬ顔で小屋を後にした。
そうして、些細な蟠りを周囲に残したまま、その日の夜を迎えた。
次にチーム戦の試験となる。3チームに分け、敵陣にある旗を取れたチームが勝利とした。これを3チームに分けたのも、2試合できるところも加味したからだ。1試合目の反省を生かして2試合目を取り組めるか。幅広 ぬ柔軟に物事に取り組める人間がどうか、それを見るにはチーム戦で戦わせる方が一番分かりやすい。仲間に入れたいと思える人間がいるかどうかの見定めにもなるからだ。
案の定、チャレンジャーたちは初めて出会った仲間と短期間で作戦会議をし、取り組んでいた。中には上手くいかずに言葉を荒立てる者がいたり、仲間を邪魔してアピールするような行動をとった者もいた。彼らの行為にマイナス点をつけといたところ、目に留まったチャレンジャーがいた。
どんな状況も臨機応変に対応する人物。その柔軟性にはサイルを彷彿とさせた。
「…彼に、注力するように」
なぜか引かれた人物は、戦闘経験のない船乗りの青年だ。未経験とは思えないような身のこなしと判断力には驚かされた。彼は採用しよう、そう思いながら試験を見守っていた
今は船乗り上がりの体で、雑用をずっとやってきた事にしている。それに合わせて肌もオイルでこの一週間日焼けさせた。腕力体力の無さをカバーする、力仕事よりも監視や伝達の仕事で船内を走り回っていたという経歴は、頭に叩き込んである。
実際に船に乗る事が無ければ巧く誤魔化せるだろうし、適応力さえ認められれば合格し、キゾンの騎士団に潜り込める筈だ。そうなれば、アケ(サイル)の行方も調べられる。
試験開始に合わせて姿をみせる騎士団長を遠目で見据え、ハリは密かに心を引き締めた。
その一方で、一頻り仕事を片付け終えたサイルは、屋敷に出入りしている商人に目を付けていた。
「あの、それは何ですか。」
ごく普通に売られている日用品を指差し、相手に問う。ある程度馴染みの商人のようで、荷台から皆直接物を買っていた。殆どが買い終え引き上げる中で、敢えて遅れてサイルは声掛けた。
「ああ、これかい。」
手に取り見せてくる。だが、サイルが奴隷であるのを見ると、金を持っていないのを知っているのですぐさまその手を引っ込めた。
「悪いな。アンタには売れねぇよ。」
「使い方がわからないので、教えて頂ければ…」
ほんの少し、誘うような双眸で相手を見つめる。更に促すように人のいない小屋の方に目線をやり、相手が乗るのを待った。割とすぐに商人は誘いに乗る顔つきをした。二人で示し合わせ、屋敷の者の目を盗んで小屋の中へと入っていく。
商人の男はすぐに、近くの台へサイルを追い詰め、伸し掛かってきた。
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入団テストの方はお任せ致しますね。選考基準はカイ様がお持ちなので。
サイルは相変わらず刺客探し中…です。(カイ様には申し訳ないのですが)
そんなことを考えていると、ドアがノックされて「時間です」と声を掛けられる。資料はある程度読み込んで、どんな人間がいるかどうかは文面上把握できた。それらを机に置いたまま、俺は試験会場へと足を運んだ。
今日は臨時騎士団員の入団テストの日。書類選考を通過した者がこの場に集められており、執り行われるテストの結果で入団が決まる。書類選考と言っても、ほぼ名ばかりだ。今回召集した団員には復興作業の任を担当させようとしている。事前にどんな人間を採用したいかは認識合わせ済みだ。資材や再建築に尽力できる屈強な人間、ないしは幅広く柔軟に物事に取り組める人間。そのベースには養われた人間性が備わっていることが条件だと定めた。
指揮や先導は部下に任せている。俺はあくまでも監督役だが、全体を見ること、そして審査に関わるがゆえにこの場を責任もって監視する必要がった。
間もなく入団テストが開始される。その時を刻一刻と待っていた。
半分程は諜報活動をしていた時の癖、というんだろうか。どうしても思考がそういう方向へ流れていってしまう。でも実際に何もない所を一人で探りに行けば、傍目には怪しく映るものだし。
サイルは少し溜息を吐いた。べレアン民のスパイは凡そ、戦争のどさくさに紛れて退去し本国で控えているだろう。彼らは事前に身分や詳細な情報を国から与えられて、活動している。一方で使い捨てのサイル達チャボラの民は、与えられた指令から任務に必要な情報を自分で集めて、乗り込む。未熟であれば当然失敗するし、敵に捕まればチャボラの仲間を守る為に自ら命を絶つよう、仕込まれてきた。
もし、洪水計画が無ければ…未達成任務を引き継ぐ前の、引き止めに乗って“彼”らと組織への反撃の機会を窺っていた。あの時、組織が見せた希望など全く存在しない、と“彼”が示してくれたから、俺はキゾンに望みを託す事が出来た。
それでも。胸中を締め付ける苦しさがサイルを苛む。きっとこれは一生自分が背負っていかねばならないものだと、郷愁の淋笑を浮かべる。
どの道もう、戻れる故郷や仲間は無い。裏切者と刃を向けられる自分でも、今迄の恩を少しでも返せるなら。成し遂げるだけの意味は十分ある。
「………。」
洪水阻止部隊(ダリル隊)が捕まったと知った時点で、“彼”は洪水が起きると判断し、対策もしていた筈だ。大丈夫。きっと、生きている筈だ。サイルにはそう、今は信じるしか無かった。
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有難うございます。
詳しくは相談板のの方に載せますね。
何度も書き連なれる言葉の意図を必死に読み取ろうとする。どうやらすでに鼠がこの国に紛れ込んでいるようだ。戦争が終わってまだ落ち着かないこのタイミングに…流石ベレアンの刺客だ。
一週間後に奴らが動きを見せる。そこへ接触しに行くということだろう。先日も教えてくれた内容と同じものに違いない。サイルを守りつつ、彼を取り巻く不安要素を少しでも払拭させなければ。
分かった、と伝えるように手のひらで動き続けるサイルの指を軽く握った。それから空いている片手で彼の頬を優しく撫でるとそのまま額に口付けする。
「…おやすみ」
そう言って彼の隣で目を閉じた。
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いいですよ〇
カイに動いて欲しい流れがあれば遠慮なくお申し付けください
「……スゥ……スゥ…」
呼吸は規則正しく、眠っているようにしか見えない。だが体に掛けられている布団の下、外から見えない僅かな空間の中ではしっかりとした意思を感じられる程強く、なぞる指が動かされる。その指先はどうやら文字を綴っている様だった。
”1”、”週間”、”後”、”街”、”外れ”、”スラム”、”変装”、”連れ”、”中毒”、”薬”、”買う”、”。”
それらの単語を順に書き綴っていく。一定のリズムで、繰り返し何度も、カイが解る様にサイルは続けた。普通に変装していくだけでは警戒される。カイに理解して貰う為の、組織から完全に抜ける為のシナリオは、恩師である“彼”に会う事が出来てからだ。
カイがいなければ、クレア姉ちゃんに会わなければ。俺はキゾンに手を貸そうと思わなかったかもしれない。皆を助けたいと、望めるのはこの国なら俺達をちゃんと人間として扱ってくれると期待出来るから。信じられるから。
でも。もし“彼”がカイを認めなかったら─
その不安を胸の奥に飲み込んで、サイルはカイの反応を待った。
_
普通の業務で騎士団の新人研修(または入団テスト)を、お出かけするまでの間に入れたいのですが。いかがでしょうか?
コード名:ハリ をその新人の中に潜り込ませたいと考えてます。
更に動きを加速させ、より奥へと突き立てる。俺もそろそろ我慢できなそうだった。その表情をサイルに見られていることも分かっている。余裕のない顔を見られていることは至極恥ずかしかったものの、垣間見えた隙に言葉を漏らす。
「好き…だよ、…サイル。………っ」
ほんの少しの笑みを零すと、彼の中に熱いものを吐き出した。彼の中で溢れていくその感覚を、彼も感じているだろか。それと同時に彼も達したようで、呼吸を整えようとしている。ぐったりしている表情を眺めながらそっと額に口付けをする。彼の中からそっと抜き、彼の隣で横になった。そのままサイルは眠りに入ったのか起きている様子はなかったが、手だけはしっかりと握りしめられていた。
甲高く耳に入る自分の嬌声がイヤらしく思えて、サイルは悩まし気に眉を寄せた。頭の中で、千々に乱れる自分と冷静な自分が共存している。それを思い知る度に、居た堪れなさに胸が締め付けられる。本当にこんな自分が人として生きていって良いんだろうかと心が揺れ惑う。
けれど自分自身で"生きたい"と望まぬ限りそれは得られぬものだと、今はそう信じていた。腕をカイの首に回し、抱き寄せるようにして自分から口付ける。
そして微笑かけると意を決して叫んだ。
「アーッ!!旦那さまァッ!!いッ!!イキそうです!!ンんっ!!イってしまいます!!」
体を強く硬直させる。ある程度サイルは自身でそのタイミングを調整できた。勿論それも訓練の賜物ではあるが、言葉とは裏腹で実態はまだ達していない。偽の声音で絶頂を示す様に叫んだものの、実際の高みへはやはりカイと共にいきたい。
誘うようにサイルはカイの体を優しく撫で、更に肉洞の入口を強く締めた。
_
この後のサイルの様子は…
達した後は気を失ったように寝息を立てますが。カイ様の手のひら掴んで文字を書いてきます。しれっと寝たフリしますので、どうぞ宜しくお願い致します。
この間は間違ってボタン押してしまって申し訳ないです(陳謝)
これからサイルを抱く。涙を溜めながら潤う瞳で俺を見つめて、欲しているのが分かった。背徳感が湧きたつ。ゆっくり先端を奥へと入れ込んでいった。
彼の表情を確認すれば、少し苦そうな表情をしている。彼がこちらを気にすることのないよう、痛い思いはさせないよう、その誤魔化しに彼の口を塞いだ。ねっとりと彼の舌と絡ませながらより奥へと押し込んだ。
「…っは…っ…ほら、お前が欲しがってたもの。全部のお前の中に入ったな…っ…」
繋がっていることを感じさせるために、俺のものが入っているであろう場所の上部に当たる腹部を撫でる。彼も感じているのかキュウキュウと締め付けてくる。
「…たくさん、愛でてやる」
これも一つの指標。彼の魂胆の手助けになればいい。俺はゆっくりと動き始める。締め付けられているせいで、中で擦れる感覚が心地よく感じた。それと合わせて次第に乱れていく表情と止められない甘い声により一層俺の中は熱くなっていった。
「あっ!!!…やだ!…ソコっ…はっ!!」
グリッと肛内の奥を擦られて、思わず善がる。何とか声量は抑えたものの、漏れ出るよがり声はもう抑えられない。思わず伸ばした手でカイの肩を強く掴んだ。
「アーッ!!…ャッ!!…ゃく…ゥンンっ!!」
慣らすのはもう十分だと、伝えたくとも言葉に出来ず、ただ必死でカイにしがみついた。指で弄られるよりも、太くて熱いカイの剛根が欲しかった。不安も震えも一気に止める熱い肉杭が、サイルの身体の奥深く貫き埋めてくれるのを待っていた。圧迫される苦しさはあっても、それ以上に、満たされる感覚に包まれて…カイの身体に寄り添いたい。互いの心音と熱を確かめ合いたい。
そんな欲望が密かにサイルの中に広がりつつあった。
_____
なんか…思った以上によがっちゃってます
(お付き合いいただき感謝です)
そう言うとサイルの履いていたズボンと下着を脱がす。露わになった下半身に、見られるのが恥ずかしそうに潤んだ瞳を俺に向けていた。胸を転がしていた指を2本、彼の口へ突っ込む。口の中に含まれている唾液を取るように指を動かした。サイルもまた、舌を絡めながらよがる様に舐めている。しばらくしてからその指を抜き、露わになったサイルの下半身へと持っていく。
入口を指で当てるとサイルはぴくッと身体を動かした。そして入り口付近をなぞる様に触れた後、彼の唾液がしっかり絡められた指を中に入れていく。彼は入れて欲しい、と言ったが、何もなしで突っ込むほど野獣な俺ではない。準備というものが必要だ。
浅いところを擦る様に触れながら、彼の反応を楽しむ。甘い声を漏らしながら、慣れてきた頃合いにゆっくりと奥へと進める。…だいぶ柔らかいと思った。こういう経験を、何度もしてきたのだろう。
「…もう一本、入れるな」
そう言って2本目の指を入れる。サイルの反応がより敏感になっているが分かった。それから探る様に彼の中で指を動かす。
彼の気持ちよさはどこにあるのか、知りたい。その欲求に導かれるように空いている片方の手と口で、彼の胸の突起を優しく愛で始めた。下では徐々に指を動かす速度を速め、着々と準備を進めた。
「カイの…で…貫いて…ほしい。」
その大きさを確かめるべく伸ばす手のひらに、触れるカイの存在が愛しくて。逞しく掌に伝わる熱感が、弾力が、待ち遠しい。こんなにも力強い命が、こんな自分の側に居てくれようとしている。
むしろ自分が十分に満足させられるか、カイの期待に応えられるか、そんな不安に揺れる気持ちが少しばかり喜ばしくて、サイルは潤む想いのままにカイに微笑みを向ける。
「俺の…ナカに…いれてほしい…、」
何の外連もなく思う存分カイの愛を、いつか全身で受け止めたい。だから今はその為に─。
自分を偽る必要のないその時まで、必死で自身の声を殺して、サイルは余すこと無くカイの全てを感じ取ろうとしていた。
_____
二人で一緒にいきたいです(笑)
相変わらず片方ずつで済みません。
しかしサイルから向けられる視線に背くことはできなかった。あれだけ自己犠牲の強く、俺を払い退けるように行動していた彼が、今俺に縋っている。胸の突起を軽く指で弾けば合わせてサイルも身体を跳ねさせた。どんな言葉よりも反応する体の方が正直だ。
首筋に触れていた手をゆっくり下へと這わせる。布越しでも分かるほど固くなっている物に触れ、彼の下着の中へ手を入れた。指先を使いながらゆっくりと触れていく。その度に彼の表情もコロコロ変わり、面白く眺める。
「…愛らしいな、サイル」
そう言うと胸の上でも下でも動かしていた手をピタリと止める。困惑した表情もまた一興だった。
「何して欲しい?…俺にして欲しいこと、言ってごらん?」
その間ずっとサイルはカイの目を見つめた。時折身体を駆け抜ける感覚に眼を細めるも、見つめる事はやめなかった。そんなサイルが途切れ途切れの吐息で、カイに囁き掛ける。
「…カイ…、愛…してる。」
すぐさま言葉を塞ぐようにカイへ口付け、何度もキスを貪った。
肌に感じるカイの指先が、顔に掛かる息が、サイルの胸深くに浸透していく。弱い耳許に彼の息を感じられる様に、カイの首筋に腕を回す。感じる度に思わず高い声を上げてしまいそうになるが、サイルは必死で喉元に押し留めた。
「…俺…のっ…声に…まどわ…されない…で…っ」
そう、目を見て囁く。切なげに双眸を揺らし、カイが意味を理解してくれるのを期待しながら、サイルは微笑んだ。
そして。目を閉じて顔を背け、あられもない大嬌声で外に響く程に叫びあげる。
「ぁああっ!!旦那さまァ…ッ!!焦らさないでぇ!!くださ…いっ!!」
叫び終えると乱れる呼吸そのままに、視線をカイに戻してまたサイルは熱く見つめた。
甘く淡く、か細い声で「愛してる」と、眼差しで訴える。
_____
もう、好きにやっちゃってくださいまし。
(…の割にサイルは面倒なことしちゃってますが)汗
しかし、その瞳に俺を騙そうとするような様子は伺えなかった。俺はサイルの右頬を撫でるように優しく触れる。月明かりに照らされて伺える俺の表情は、君にはどんな風に見えているだろうか。
「…サイル。俺は…君に無条件で触れたい。…それが今、叶わないのなら……ちゃんと、俺を拒んでくれ。君の、思うままに。」
そう伝えるとゆっくり顔を近づけ、唇を重ねた。何度も何度も堪能するように重ねる。それから彼の首筋を指でなぞる様に触れた。反応し口を開いた彼にすかさず舌を絡めた。彼の反応を零さず確認する。拒む様子は今のところはないため、左手をサイルの服の中へと忍ばせる。胸元辺りを撫でるように触れると、少しずつ余裕のなくなるサイルの姿に一度口を離した。
「……っ…嫌?」
吐息のかかるくらいの近さで彼の様子を伺った。
_________________________
とんでもございません…!大丈夫です〇
むしろすみません、カイがもう我慢できなかったです
何度もお誘い貰ってて、でも恋仲じゃないのに自分の一方的な感情で進めなく、、
でもこれ以上お断りするのも限界そうでした、、
ちゃんとサイル様、嫌なら拒んでくださいませ
「あの…自分一人では…広すぎます。」
起き上がろうかと思いつつも、困惑した眼差しをカイに向けた。躊躇いがちに伸ばした指が、胸元を叩くカイの手に触れる。
せめて、使うのは俺一人でなくて…カイにも共に使ってほしい、と。それがどういう意味なのかも承知で、むしろと望む自分の心はもっと先を求めていた。誘うようにサイルはカイをを見つめる。
だが、忍び寄るように不安はサイルの心から消えない。
より安全を期するなら、もっと確実に奴らには俺がカイを利用しようとするように見えなければ。ならば。
サイルは身を捩って上半身を起こし、カイの耳元に唇を寄せた。そして口づけるかの如く、か細い声で強く囁く。
「カイ、事が済むまででいい。だから…俺を貴方の娼夫にしてくれ。」
そう言って、強引にカイを自分の上に被さる様にベッドへ引き寄せた。
_____
すーっかり遅くなって申し訳ないです。例の「ガチエロぉぉぉ!!!」「肉(欲)肉(欲)食いてぇ」発作が治まらず…。
漸く落ち着いて、思考が回せる状態に回復(…したと思いたい)です。
サイルの「事が済むまで」は、組織を振り切る or 組織を潰す までとの事で。
それまでは恋仲にはなれない…と。ホントは気兼ねなくイチャつきたい願望もあるのですが…こればっかりはサイルの性分なので。寛大に受け止めて頂ければ幸いです。
本当に、遅くなってしまって申し訳ございません(平謝)
「大丈夫か?!」
サイル自身も何が起きたのか分からない様子だった。まだ足の具合が良くないのかもしれない。サイル自身治ったつもりでいたかもしれないが、身体はまだ万全じゃないということだろう。あんな酷い傷を作ったのだ、仕方ない。
唖然とするサイルを抱き上げ、自分のベッドへ寝かせる。人1人寝るのにやっとな大きさではない。2人分あってもおかしくない程の大きさだった。すぐに起きあがろうとするサイルを制止するかのように布団をかける。
「……まだ、無理するなって身体が言ってんだろうよ。…気にするな、ここにいる。」
優しく微笑みながらそう伝えると、ベッドに座りサイルの胸元あたりに手を置いた。そしてまるで赤子をあやすかのように一定のリズムでトン…トン…と優しく叩き始めた。
今はサイルの体が優先。無理はさせたくなかった。
「大丈夫か?!」
サイル自身も何が起きたのか分からない様子だった。まだ足の具合が良くないのかもしれない。サイル自身治ったつもりでいたかもしれないが、身体はまだ万全じゃないということだろう。あんな酷い傷を作ったのだ、仕方ない。
唖然とするサイルを抱き上げ、自分のベッドへ寝かせる。人1人寝るのにやっとな大きさではない。2人分あってもおかしくない程の大きさだった。すぐに起きあがろうとするサイルを制止するかのように布団をかける。
「……まだ、無理するなって身体が言ってんだろうよ。…気にするな、ここにいる。」
優しく微笑みながらそう伝えると、ベッドに座りサイルの胸元あたりに手を置いた。そしてまるで赤子をあやすかのように一定のリズムでトン…トン…と優しく叩き始めた。
頭の上のカイの手を、くすぐったい思いで感じていた。優しさや気遣い、愛おしさや離れる不安、そんな全てをない交ぜにして心に感じる温もりが、サイルを包んでいた。そして、彼の手が離れてからも、サイルはカイから去り難くて熱く眼差しを向ける。
望んでも、いいのだろうか。
もっと彼に触れていたいと感じる肉体が、仄かに熱を帯びてくる。性欲を望む醜さがサイルの心を苛んだが、それ以上にカイの声や甘い口づけやその優しい手を、もっと感じていたいと願う自分に、今までのような否定の感情で押し留めるだけの気概がない。
「……………ぁ…の、」
甘えたい、その気持ちが余計に体をカイヘと惹きつける。けれど、寸でのところでサイルは踏み止まった。
「…お休みなさい。カイ、様。」
それだけをどうにか絞り出し返す。そして、向きを変えて歩き出そうと一歩足を踏み出し、予想だにしない出来事に見舞われた。
カクン、
例の膝傷がある足が、力が抜けて立てなかったのだ。踏み出し、重心を乗せた途端、サイルは床に崩れこける。何が起きたか自分で把握ができなかった。強かに体を打って痛みに顔が歪むよりも、驚愕に呆然としたままの間抜けな顔が、サイルの顔情を覆っている。
_____
更新忘れてました!
彼が自分を少し受け入れてくれたことを理解し、彼が絡めてくれた小指に力を込めた。それからサイルから”見て欲しい場所がある”と言われる。身分は隠して欲しいというのだから、安全な場所ではなさそうな気がしている。
「…分かった。一緒に行こう。」
そうサイルの意を汲むように真っすぐな真剣な瞳で彼に応えた。
それからスッと立ち上がり、邸に向かおうと声を掛ける。すでに移動用の馬車が用意されていたため、サイルとともに乗り場へと向かい、ともに馬車に乗って新居となる邸へ向かった。
邸に着くとそれは豪勢な屋敷が立っていた。こんな立派なものを俺は貰っていいのだろうか。怖気づいている矢先に、執事たちが出迎えてくれた。執事の中には顔見知りもいる。もともとクロード様に仕えていた人たちがいるからだ。彼らの出迎えに応じてサイルと共に屋敷に入る。
すでに掃除がされており、リビングと寝室や書斎、執事たちも含めて数部屋存在していた。その中の1つで最も眺望と日当たりの良い場所を自分の寝室とした。勿論サイルにも好きな部屋を選ばせた。
「……今日はゆっくり休むといい。…夜、寝れない…なんてあれば、遠慮なくおいで。」
そう優しく声を掛けると、サイルの頭を軽く撫でた。
体を起こし、カイの小指に自分の小指を絡める。そして力強く手を握り込んだ。
「絶対に…死なないで下さい。」
そう口にして、約束の指切りを交わす。
「貴方に見て欲しい場所があります。一緒に来てくれますか。」
気持ちを打ち明け、彼の意志だけ確認する。今すぐに行動するという訳にはいかない。洪水からは半月は過ぎているとはいえ、復興への準備がなされている街とは違ってその存在すら知る者は殆どいない。
未だ存在するかどうかもわからない、酷い有り様だろうという事だけは想像が付く。
「…身分は隠して欲しいので、後日に。」
囁くように告げると強い目差しでカイに理解を求めた。
_____
漸くサイルも自分の非道さを見せる覚悟ができました。数日後に案内しようと思ってます。
なので、ひとまずは邸に行って、部屋でいちゃつくなりはお任せします。
「……サイル」
そう名前を呼ぶと、彼の前に片膝をつけ、サイルが顔をあげれば目線が合うくらいの姿勢で声を掛けた。
「君が、何を怖がっているのか…どうして、そんな態度を取るのか、今の俺には分からない。…でも、少しずつ見つけてやる。…君がもうそんな顔をしないように、君の暗雲を晴らせるように努める。…でも間に合わなかったら…すごく後悔するから。…その時は必ず、助けを求めてくれ。」
約束しよう、そう言って強引にサイルの前に小指を立てた。
_______________________________
サイルくんが何かを抱えていることも、抱えているけれど言わないことも分かった上で、
カイなりに伝えたかったです、
これからカイはサイルが抱えているものを少しでも見つけて取り除こうという姿勢を持っていることが
伝わると嬉しいです。
こちら返信お待たせしてしまいました(。。)
そっとサイルはカイの腕を押し返し、両膝をついて平伏した。
「御主人様。自分は貴方様の奴隷です。どうか…命じて下さい。」
きっとこんなのは、カイなら嫌がるだろう。けれど、互いの立場を崩す訳にはいかない。カイは今や騎士団長であって、子爵の位を授かっている身分だ。一介の、しかも罪人だった自分と対等に付き合う相手ではない。
それだって本当は全てを受け入れる自信のない自分の言い訳だと、サイルはわかっていた。まだ気を抜けない。何処で組織が動いているかわからない。戦争が終わったからといって、あの組織が壊滅したとは思えない。きっとまた何らかの形で動き出すに違いない分、その脅威を拭い去るまでは安寧な生活に溺れる訳にいかない。
今はただの奴隷として様子を見ながら、折を見てカイから離れた方が、彼を危険から遠ざける一番の近道だと感じていた。
「支度した後、すぐに邸に向かう。…君たちも荷物を揃えて、馬車の前で待っていてくれ。…私の付き添いは、一旦彼だけで大丈夫だ。」
そう言ってサイルの方を見る。その表情は騎士団長として凛々しく、感情の読み取れないような瞳でまさにクロードを彷彿させるような立ち振る舞いだった。そしてサイルの方へ近づくと、見下ろす様に見つめた。
「…貴様は、私についてこい。」
そしてサイル、メイド・執事たちとともに部屋を出て行き、彼らが準備のため自分から離れるのを見送ると、サイルと共に自室まで歩き始めた。サイルは後方に、自分に付いてきている。
しばらく無言のまま歩き進め、自室に辿り着いた。2人で中に入ると俺は漸く肩の荷を下ろせた。
「…緊張、したな」
振り向き安心したような表情をサイルに見せる。会場では見せなかった柔らかい表情で軽く笑っていた。キョトンとするサイルを乗りかかる様に抱きしめる。
「…よかった、また会えて。…心配、してた。」
使用人…その筆頭の侍従長が恭しくカイに頭を下げる。3分の2がシーバック家に仕えていた者達だ。彼らも慣れ親しんだ邸を離れ、新しい職場に移る事を快く受け入れていた。
「新しき邸の事は我々も心得ております。どうかご心配召されませぬよう、我らに御任せ下さい。勿論御要望も気兼ねなくお申し付け下さい。我ら一同、誠心誠意を以てカイ・アビー様のお仕え致します。」
形式的ではあるが、それでもきっちりとした美しく気品に満ちた挨拶を、館の主となるカイに行った。それだけでも侍従の仕事への能力の高さが伺える。
サイルはその後ろで俯き加減に佇んでいた。
相変わらず無表情であった。けれど実際は、内心飛び上がりそうな程驚いていた。カイがまさか主人になるとは、想像していなかったからだ。驚きと、嬉しさと、戸惑いと、不安と、そして恐れが入り混じる感情に、どうしていいか答えが出ない。
「御主人様。我らは先に邸の準備に参りますので、これにて失礼致します。」
執事ら他メイド達が、カイの身の回りの世話をするメイドと奴隷のサイルを残して、先に会場を後にする。立ち竦むサイルとは対照的に、場をわきまえているメイドは一歩引いて、カイが動き易い様に脇に控えた。
_____
急かすみたいにがっついてしまって、申し訳ございませんでした(陳謝)
もちろん、忙しい時は更新が遅れて当然のことです。心得てますのでお気になさらずに。
※奴隷枷に関しての取説、軽く記載しておきます。鎖は形式上まだ付いてる感じ(式場内)
鍵には追跡装置が付いていて、逃げても場所がわかるという仕組み。保管は城で一括管理。解放を望む場合は国に申請、許可が下りれば城で解錠してもらえる。
ただし、城から半径100k(…位かな、と)内の範囲は移動しても支障はないが、それを超えると徐々に金属が変形し、足首が圧迫されて最悪死に至ることもある。
枷に使用している金属は特殊鋼なので、切断する事は不可能、とされている。
グッと噛み締めるとエムブレムを受け取り、胸元に宿した。
それから与えられた褒章に俺はあまり興味を持てなかった。邸を頂けたことも使用人をつけてもらえたこともこの上ない褒美だ。感謝の意しかないが、それ以上の想いは生まれなかった。ましてや、奴隷など要らない。人を道具のように扱うのは酷い嫌悪感を抱く。優秀な人材だからこそ貴爵付きなのだろう。どんな人間でどうしたかは会ってから話をして決めよう。そう思い、執務官から契約書を差し出される。そこに記載されていた使用人と貴爵付き奴隷の名を見て心臓を突かれる。
「で、殿下……これは……?」
顔を上げ驚いた表情で王太子殿下を見つめる。ゆっくり瞬きをしてまるでこちらの意図することを理解しているように軽く頷いた。あれからサイルがどうなったか、知るすべがなかった。処分が下されていることは知っていたが、まさかこんな内容だったとは。
俺は一通り契約書に目を通し受け取った。
「有難きこと、誠に感謝致します。この先も、殿下への忠誠と共にこの国の更なる発展に向けて、精進いたします。」
意志を強く固める。そして扉が開かれ使用人と貴爵付き奴隷が中に入ってくる。表情を一切崩さず、彼らを見つめる。そして最後に目を合わせたのは最初に出会った頃と同じような沈んだ瞳のサイルだった。
「…ぅ…くっ」
全身を洗われた後、薬の影響を診る加減もあってか、そのまま健康診断をされた。触診を受ける間、戻りつつある身体の感覚に吐息を噛み殺し、できる限り平静を装う。もしくは少しばかり膝足の痛みに顔情を歪める様に取り繕って、周囲の目を誤魔化した。
実際、膝の痛みは少しだが戻っている。それでも我慢できない程ではない。この位なら日常生活を十分に送れる程度の力はある。渡された服に袖を通し、新たな主人に飼われるべく、サイルは身形を整えた。
「………、」
その考えに思わず自嘲してしまった。衣食住の保証された世界が待っているのに、サイルは戻りつつある身体に色香を纏わせるべきかどうか迷った。ただの奴隷…下僕として扱き使われた方が、やはりマシな気がする。
監視官の導きで、新しい主人が待つという広間へ連れていかれた。どんな相手なのかわからないけれど、所詮誰であろうと変わらない。うっすらとカイの姿が瞼の裏に蘇るけれど、もう彼は記憶の中にしまい込む遠い想い人だ。式が行われているという扉の向こうからは歓声や拍手が聞こえてくる。
サイルは己の感情を始末して、道具に成り下がるべく無機質な表情を面に張り付けた。
会場では此度の戦果による褒章授与式が行われていた。
国境平野部での激戦の中、敵の進軍を食い止めていたローン・ヒルトン騎士団長他、各騎士団長や副騎士団長、並びに首都部での国民の混乱を治めた官僚や物資の救援を行った貴族等、幅広く功績を認め、キゾン国王より労いの言葉をかけられていく。
そして、最後のカイの番となった。王の立つ式壇の前に跪き、授かる体勢のカイに国王から高らかに宣言された。
「カイ・アビーに子爵の位を授け、山岳騎士団長に任命する。」
一瞬会場はどよめいたが、すぐに盛大な拍手が送られた。
「それに伴い、旧クノック家の邸と使用人10名、そして特別に貴爵付き奴隷を与える。」
その言葉と共に執務官が契約書をカイの目の前に差し出した。受け取れば全てを受諾した事になる。
「…総督から預かっていました。もう貴方に返してよいと。…クロード様、彼女は生きています。ベレアン敷地内で偶然会いました…顔に傷は残っていましたが。…そして彼女から”いつか必ず会いに行く”と伝えて欲しいと。」
その短刀を彼の前に置くと、頭を下げて言葉を続けた。
「俺は、貴方と出会って、共に戦えて、…また生きて再会できて、本当によかった。そしてこの先もずっと、貴方は俺の憧れです。…だから、…だからどうか、…これ以上自分を犠牲にしすぎないでください…っ …ちゃんと生きて、くださいね…。」
震えた声で言葉を絞り切る。これでやっと自分の役目は終えられたと思うと、心臓を締め付けられるような心地になった。自分の大事にしたい人たちが裁かれ、処分されてもおかしくなかった状況でこうして生きて再会できて。戦争の先導を任されてから今日まで、どれほど不安だっただろうか。怖かっただろうか。漸く緩めた心の糸のせいで、俺の目には零れんばかりに涙が溢れていた。
____________________________
「素晴らしいご提案かと。…すぐにカイ・アビーの昇格と奴隷受け入れの手配を致します。」
総督は王太子殿下の判断に同意した。異論はない、それほどの活躍を果たしてくれた。クロードを失ってから、相当重い責務をやり遂げた彼には申し分ない褒章であろう。そしてカイ・アビーのもとに入れば、この捕虜も人として、自由な暮らしを手に入れられるだろう。意外と面倒見のいい彼だ。サイルのことも、任せて問題ないだろう。
こうして調停は終了し、サイルの身柄はカイに渡されることとなった。
______________________________
こんな感じで大丈夫でしたかね?
まとめお願いいたします
「どの程度の目処かはわからないが、復興が済めば君達は解放される。故郷に戻るも良いし、ベハレスコには自治権を与えるという話があるので、働き次第ではそのままそこに留まっても良い。基本、敵対する要素が見受けられなくなれば、責務終了と共に君達には自由が約束されている。」
頑張りたまえ、と事務官は笑ってエールを送った。
____________________________________________
どれ位経ったのだろうか。僅かにクロードの睫毛が揺れる。ゆっくりと開かれた双眸は動揺も焦りもなく、淡々と現状を見つめるように天井に向けられた。
視線をずらせば、傍にはカイがいる。力を込めても全く反応しない利腕に、完全に処置が終わったのだと認識した。
不安げなカイの眼差しに、クロードは心配させないよう優しく微笑みを返す。そして体を起こすべく力を込めたが、バランスの悪さにぎこちない動作になって難儀した。これはまた一から身体を鍛え直さねばならない。
「カイ、付いていてくれたのか。」
世話になったと、軽くクロードは頭を下げた。
____________________________________________
「うむ。」
王太子は総督の提案を快く受け入れた。そしてもう一つの案件、カイへの褒章へと話を移す。
「次に、カイ・アビーの爵位についてだが。この機に子爵の位を授け、クロードの跡(山岳騎士団長)を引き継がせたいと思う。クノック家の邸を与えてはどうだろうか。」
クノック家は数年前の戦火により既に途絶えた家柄だ。邸宅はその後王族所有となり、現在は研究所代わりに使っている王太子の所有物となっている。開拓するにも土地が限られたキゾン王国では、邸宅を持つのが一種のステータスであり、騎士団長の地位に就く者には必要な要素だ。
---------
御前会合 → カイ様のクロード見守り → (新規ロル)フーゴン外交外遊準備 → ダリル様達収容同意 → サイル判決 → (新規ロル)カイ様褒章授与式
…の流れでロルをまとめる予定です
「どの程度の目処かはわからないが、復興が済めば君達は解放される。故郷に戻るも良いし、ベハレスコには自治権を与えるという話があるので、働き次第ではそのままそこに留まっても良い。基本、敵対する要素が見受けられなくなれば、責務終了と共に君達には自由が約束されている。」
頑張りたまえ、と事務官は笑ってエールを送った。
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どれ位経ったのだろうか。僅かにクロードの睫毛が揺れる。ゆっくりと開かれた双眸は動揺も焦りもなく、淡々と現状を見つめるように天井に向けられた。
視線をずらせば、傍にはカイがいる。力を込めても全く反応しない利腕に、完全に処置が終わったのだと認識した。
不安げなカイの眼差しに、クロードは心配させないよう優しく微笑みを返す。そして体を起こすべく力を込めたが、バランスの悪さにぎこちない動作になって難儀した。これはまた一から身体を鍛え直さねばならない。
「カイ、付いていてくれたのか。」
世話になったと、軽くクロードは頭を下げた。
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「うむ。」
王太子は総督の提案を快く受け入れた。そしてもう一つの案件、カイへの褒章へと話を移す。
「次に、カイ・アビーの爵位についてだが。この機に子爵の位を授け、クロードの跡(山岳騎士団長)を引き継がせたいと思う。クノック家の邸を与えてはどうだろうか。」
クノック家は数年前の戦火により既に途絶えた家柄だ。邸宅はその後王族所有となり、現在は研究所代わりに使っている王太子の所有物となっている。開拓するにも土地が限られたキゾン王国では、邸宅を持つのが一種のステータスであり、騎士団長の地位に就く者には必要な要素だ。
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御前会合 → カイ様のクロード見守り → (新規ロル)フーゴン外交外遊準備 → ダリル様達収容同意 → サイル判決 → カイ様褒章授与式
…の流れでロルをまとめる予定です。
「従事は期限付きだろうか。俺はどうなってもいいが、…復興後、責務のなくなった4名の身柄はどうするつもりか、教えて欲しい。」
強制労働か監獄へ逆戻りか。あいつの言葉を信用しようと決めた俺からすれば、もう答えは出ているのだが事務官の回答次第では考え直さなくてはならないと思っていた。
____________________________________________
その頃、カイはクロードの眠っている病室を訪れていた。未だ麻酔から目覚めない彼の隣に来ると、医務官が座椅子を用意する。有難くその椅子を彼のベットの隣に置き、座って彼が目覚めるのを待っていた。
総督の話に寄れば、サイルの処分も執り行われているらしい。あの場を王太子殿下が許してくださったのは幸いだったが、俺がクロード様の処刑に無断で侵入し王太子殿下の前で無礼な態度を取ったことは周りの人間が許さなかった。そして今度こそは、サイルの処分に立ち会うことを禁じられた。従うしかあるまい、…最後に一度サイルの姿を見に行ったが眠っていて声すらかけられなかった。しかし元の姿に戻って頂け安心する。刑の内容は大方、総督が密かに教えてくれたためサイルも命は助かることは認知していた。
「…………」
この先どうなってしまうのだろうか。終戦したにも関わらず、戦争の時よりも不安な心情でいっぱいだった。ただ今は目の前のクロード様が目覚め、不安にならないようにと傍にいることが俺にできる行動だと言い聞かせていた。
__________________________________
「…殿下、よろしいでしょうか」
サイルの処罰が決定されたその場、総督が声を上げた。王太子殿下の許可を得て言葉を発する。
「サイルの管理者はすでに確定されていますでしょうか。…無ければ、カイ・アビーに任せようかと思っております。洪水発生や毒霧の件も然り、サイルにはまだ利用する余地があります。これまで上手く取り扱ってきたカイが適任かと。」
それにカイに任せれば、否が応にも逃げられまい。逃げてしまえばカイの首も飛ぶのだから。
出入り口の扉や、事務系の執務官と思われる脇など、勿論椅子の周りにも2、3人、屈強な騎士が逃亡を阻止するように目を光らせていた。
まずは、ダリルが事務官の前へと引き出される。面接でもするように、机前の椅子に腰掛けるよう強制的に促されて、そのまま両脇を兵士に固められた。
「君はダリル・オーマンで間違いないか? もし書類に同意しない場合は、改めて別の強制収容所への審査を行うことになるが。その場合、決定するまで再度牢獄へ隔離となる。
終戦協定の締結までまだまだ時間がかかる。君自身の人生だ。よく考えて選んでくれたまえ。」
事務官は威圧するでもなく、親身に落ち着いた口調で淡々と声をかけた。
───
同じ頃、サイルはクロードが処刑された部屋に連れて来られていた。目の前には王太子殿下や総督、それに執行官等、刑の執行に必要とされる人材が揃っていた。
「サイル。其方を貴爵付きの奴隷とする。尚、勝手に逃亡した場合は断首となる故、心せよ。」
王太子殿下の声が室内に響いた。彼の挙手の合図と同時に、サイルは椅子に座った形で押さえ付けられる。抵抗するのが無駄だと感じて、大人しくそれに従った。何かの液剤に浸けられた薄い金属のようなものが、サイルの包帯の巻かれた側の足首に巻き付けられる。金属にしては珍しく柔軟だったが、ひやりとした一瞬の感覚の後そのまま固まってしまった。金属の縁が肌に擦れない様に保護する樹脂のようなものがはめ込まれ、逃亡防止の鎖が今しがたの金属に付けられる。
「何か質問はあるか?」
執行管理の役人に問われるものの、自由がある訳ではないサイルには無意味に感じた。己に在るのは、命令にただ従うだけ。そういえば、と少しだけ気になる事を口にした。
「…所有者、にも罰則はあるんですか。」
「当然だ。君が問題を起こせば雇い主も管理不十分で罰せられる。」
他には?と訊かれたが、それ以上は尋ねる事もないと、サイルは目を伏せて首を横に振った。
そう答えたのはヒルトンだった。隣にいたカイは顔を上げ、王太子殿下を見つめると少し顔を逸らしながら苦しくも小さく頷いた。その場にいた全員が王太子殿下の最終決断に首を縦に振る。それを見た王太子殿下は医師に処罰の続きを命じた。
患部以外が全て覆われているため、判断が難しいが、クロードは微動だにしない。麻酔が効いているのだろうか、混濁しているのかもしれない。そして施術を誰もが見つめる。そのメスが患部に差し掛かった時、カイだけは目を伏せていた。ヒルトンはその様子を横目で見ながら最後まで施術を見届けていた。
医師がメスを置き、施術が完了したことを王太子殿下に告げた。その声を合図にカイも顔を上げた。彼が目覚めないと分からない。見た目が大きく変化したわけじゃないからだ。
これで彼は騎士団を追放になる。あのお方がクロード様を引き取ってくださるようだから、すぐに身寄りがないということにはならないだろう。
カイは憧れ、追いかけた親愛なる上司の最後をただただ見届けていた。
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短くてすみません…
そして無理矢理ではありましたが、クロード様の腕を片方でも機能を残せて良かったです
この後の動きはお任せしますが、そろそろクレアも動かしたいなと思います
タイミングはこの後の展開次第ですが、近々再開させていただければと思いますm(_ _)m
「わかった。だか、クロードの利き腕は剥奪する。」
本来なら五体無傷であるのが良いだろう。だが、彼から腕を奪うのは、二度と騎士団に戻らせない為にだ。その任務の厳しさから騎士団の規定には『身体健常者である』事が義務付けられている。この先、クロードの罪が恩赦で免除されてもその規定がある限り、彼が再び騎士団に戻り縛り付けられる事は無い。
もう自由に生きて良い筈だ、彼は。シーバック家を継ぐ者や王国を護る騎士団長として思う存分、役目を果たしてきた。その頸木から解き放ち、今後は一個人としてクロードには己の人生を歩んで貰いたい。
そう、目の前の台上で待つクロードを熱く見守った。
王太子は医師に処置を始めるよう合図した。
「クロードの所有する金財は没収、当面のシーバック家領は王族領として管理をし、それ以外の資産に関しては山岳騎士団預かりとする。それならば異論は無いな?」
いずれ、クロードと騎士団はまた強い繋がりを持つ事になるだろう。その時まで預かり置くつもりであった。現状では厳しく映るかもしれない処遇だが、長い目で見れば十分に彼の功績に応えられるものだと自負している。
再度、王太子は皆の眼差しを一人ずつ確かめるように見つめた。
_
ズフズフとまでは言わないですが。それなりには山岳騎士団所属の面々を自宅へ招いたり…とか、良好な関係を保ってたであろうと思いまして。
シーバック家のお屋敷とか、カイ様に一旦お預けする形になると思います。(迎賓館活用してね、みたいな)
「…私からもお願いいたします、殿下。」
ポツリを置くように言葉を紡いだのはヒルトンだった。彼はその老体で王太子殿下の前に来ると、ゆっくり跪き、頭を下げた。
「私は、クロード・シーバックが起こした此度の件を許す気にはなりません。それ相応の罰が必要だと考えております。…私からすれば王家のご子息を手に掛けたことも、ベレアン捕虜の逃亡に加担したことも、全てキゾンを裏切り、ベレアンへの加担にしか思えなかった。…それでも尚、キゾンの勝利のためにベレアン捕虜の助言を利用するなど…。正直に申し上げますが、あの時、クロード・シーバックの雄姿に王太子殿下も毒されていると、…見損なった次第でございます。」
ベレアン加担するだけでなく、ベレアンの人間の言葉を信じて戦略を練るなどヒルトンにとっては”キゾンは利用されている”としか思えなかったのだった。そしてクロードの言葉に耳を傾け、その選択を決断した王太子殿下の判断もヒルトンにとっては屈辱的な出来事だった。
「…しかし、カイ・アビーを筆頭にクロード・シーバックは我らに勝利を与えた。実際の戦場に立っていなかったとはいえ、この城に護衛に周り、侵入者を捕縛し情報を炙り出した。…その事実を知り、私は過剰に彼を疑い深く見ていたと痛感いたしました。…加担どころか、ベレアンが優勢だった状況をひっくり返す働きをしてくれたと、思っております。…そのおかげで、どれほど多くの人間が、仲間が救われたことでしょう。それらすべてを天秤にかけても、両腕を奪う程の罰が必要なのか、…私はそう思いません。…王太子殿下のお気持ちはよく理解できます。しかし前にもお伝えしましたが、どうか平等なるご判断を、お願いいたします。」
穏やかにではあるが、語気を強めに王太子はカイに言った。尤も、それが分かっているのなら、この場に乗り込んでまで嘆願する事は無いだろう。
「私はこれを機に、クロードには完全に退いてもらうつもりでいるのだ。」
クロード自身が己が実力で自らの地位を勝ち取って行く様子を、王太子もずっと目にしてきた。だからこそ、物理的に確実に剣を握れない状態まで追い込まないと、彼は恐らく国の為に、皆の為に、働く事を止めない。そして、それが彼を安寧に暮らさせる一番の近道であると、王太子は考えていたのだ。もうこれ以上棘の道を彼に歩ませたくは無かった。
「残念ながら、王太子殿下。それは無理な望みでございますわ。」
凛とした女性の声が会場に響き渡る。思わぬ声に、皆一斉に扉の方へと目を向けた。
「クロード・シーバックと取り決めを交わしているので、腕は一本残して貰いたいのですわ。」
「姉上っ、どういうつもりでっ!!」
非難しようとするも彼女はそれを制し、事も無げに話を続けた。
「昨晩、こっそり様子を見に行けば、彼にお願いされましてね。後で捕虜にした5人にはベハレスコ出身者がいるから、彼らの知識を生かして素早く復興を成し遂げたいと。その為に彼らをベハレスコへ帰す許可が欲しいそうよ。」
確かに、他の捕虜に関しての裁はまだこれからだ。とはいえ、そうそう勝手に判断されては困る。王太子は内心頭を抱え、姉である彼女を見た。
「それで、私の部下となり、護衛として各国へ同行するなら叶えてあげると約束しましたの。両腕無い状態の見っとも無い姿を晒させたくはないのでね。」
既に、話が決定している前提でされている。許可した覚えは無いし、するつもりも実質的に王太子は無かった。けれど、それ以上に力強い眼差しの彼女は、君主たる威厳をまとって厳しく言い放つ。その声は会場だけにではなく、居合わせたる者の意識にまで深く響き渡るものであった。
「それに。有能な人材を遊ばせておく余裕は、今の国家に存在しないのでは? 私からもお願いしますわ。」
彼女にしては珍しく、深く、その場に居る全ての者に向けて頭を下げた。
_
ヒルトン様の思う所が気になりますので…。
「お待ちください!!!」
扉が勢いよく大袈裟に開かれ、カイが必死の形相で入ってくる。その言葉に医師も動きを止めてしまった。王太子殿下の嫌悪的な表情に一切目を向けず、カイは王太子殿下の目の前に来ると土下座した。
「お願いです!!彼の腕を奪わないでください!!」
額を地べたに付け、カイらしからぬ大きな声で懇願する。一瞬迷った総督だったが状況と立場を考え、カイの元へをやって来る。王太子殿下の前から引き剥がし、立ち上がらせようとする。
「そこをどけろ。無礼であること、分かっているのかカイ・アビー。」
「十分承知でございます!!だからこそ、俺はここから離れません!!」
「…これは王太子殿下がご決断なさったことだ。それとも、貴様が身代わりに」
「私が代われるなら本望です…!!」
その言葉に総督もヒルトンもぴくッと眉を動かした。王太子殿下もまた少し顔を歪ませる。カイは今なお土下座を続けながら言葉を続けた。
「ベレアン捕虜の逃亡加担について、捕虜の解放許可を出したのは私です。私にも罪がございます。であれば、彼の罪は財産没収と騎士団の追放で十分でしょう。貴方達が奪おうとしているその腕は…どれほど多くの騎士を…国民を救ったか。今一度考え直していただきたい。…それでも軽罰であると思われるのであれば、どうか私の腕を奪ってください。お願いします、…お願いします…!」
感情の高ぶりで涙が零れてしまった。俺の腕など人の命を奪って国に捧げるために使われるものでしかない。そんな腕など無くなって当然だ。しかし彼は違う。大切な人を、愛する人を抱きしめるために必要んなのだ。
総督もヒルトンもカイの必死の訴えを最後まで聞くことしかできなかった。会場はカイの「お願いします」と繰り返される言葉と呼吸を整えようとする荒い息づかいが響き渡っていた。
不自由なりにも甲斐甲斐しく世話を焼けるこの数日間は、カーナにとって幸せな時間だった。あれ以来、あの男が姿を現す事は無かったけれど、ダリル様と二人でイチャイチャ出来る最高の時間であった。
ただ、祭が始まると否が応にも不安になる。祭が終われば、この二人だけの穏やかで甘い時間も終わりを告げる。もしかしたら二人の命も終わりを告げるかもしれない。
「ダリル様、」
甘える様に彼の胸に体を預けていく。カーナはただこの大切な時間を余す事無く感じられるよう、静かに瞳を閉じた。
戦勝祭が行われているのは、サイルの牢にも伝っていた。だがそれよりも、サイルはクロードの判決の行方が気がかりだった。刑の執行は戦勝祭後に行われると、聞いてはいる。クロードの刑の執行が済めば、当然次は自分の番になるんだろうが、サイルは自身の行く末には無頓着だった。
いつだって思うのは、カイやクレア姉ちゃんやクロードや…昔の仲間が無事に暮らしていってくれればそれでいい、という事だ。分かっているのは、自分の未来に何一つ期待なんてしていないという事。生きるも死ぬも、自由も束縛も。
今の自分に出来る事は、もう無い。ただ時が来るのを待つだけだ。
全てが終わったら、それで自分が生き残っていたら…戸惑う気持ちを持て余すのもまたサイルの本心であった。
そして。刑が執行される当日の朝になった。
全身を覆う処刑服は、どんな人物かも分からぬ位に厚手の頑丈な生地で作られ、処置を施す部位のみを開口出来る仕組みになっている。
着替えさせられたクロードは、先日サイルが実験を披露した会場に連れて来られた。既に中央には術台が備え付けられており、周囲には立ち会いをする王太子殿下他、総督とヒルトン騎士団長の姿がある。
クロードは無言で深々と彼らに頭を下げた。そうして頭を上げたクロードに、覆面が取り付けられる。
頭部に被せる覆面は、執行会場で立会人が見守る中、装着される。着けられれば目も口も耳も覆われて、誰なのかが全く分からない。そうして漸く医師が会場内に入ってきた。
「では、これより執行致します。」
王太子に向けで医師は恭しく拝した。同時にクロードも身体を術台に固定される。
「両腕の剥奪は重すぎはしませんか?! 彼はこれまで幾度も戦で指揮を執り、その功績を我々に与えてくれました…!その対価にしては奪いすぎではないでしょうか…?! もう一度、もう一度お考え直しを! …彼にはまだ…!」
大事な人を抱く腕が必要なんです
その言葉を口にする前に周りから制止される。地面に押し付けられ、カイは身動きが取れなくなる。いくら今回の大戦の功労者であろうと、王太子殿下への無礼な態度は見逃せなかった。
そこへ総督が言葉を告げる。
「…これは、王太子殿下のご決断だ。」
その後ろでヒルトンは軽く頭を下げたまま「御意」と返事をする。何も感じていないような無の表情を浮かべ、王太子殿下が去られるまで顔を上げなかった。
こうして、クロードの処罰は確定され、翌日にも刑は執行されることとなった。
_____________________
刑の執行中にカイが強引に割り込んできます。
またヒルトンも思うことがありそうなので…。
一人ごちに王太子は呟いた。死を与えるのも重罰である。だが。
深く思い悩む様に王太子は口を閉ざし、暫し間を置いてから決意の眼差しを皆に向けた。
「クロード・シーバックの全財産の没収、及び騎士団永久追放、そして二度と同じ過ちを犯させぬ為に、彼の両腕の剥奪を命ず。」
そう宣言した。実験の結果によって明らかとなった事実を踏まえれば、クロードの死を望む者も少なからず居るだろう。だが、死だけが重罰に当たる訳ではない。
より鮮明に、明確に、生き辛さを目の当たりにする刑罰となれば、やはりこの方法になるだろうかと、王太子は考えた。
「刑の執行は戦勝祭の翌日に行う。本来なら公開で処刑するべきだが、今回は立会人の元、医師の処置で行い、確実に神経を切断し彼の腕を亡きものとする。」
医師の処置故に、クロードが命を落とすことはない。見た目も刑を受けた事は分からないだろう。ただその先の彼の人生、他人の手助け無しに成立するのは、日常生活を考えただけでも難しく、困難を極める想像は容易である。
騎士団の追放により、クロードが城に留まれるのも刑の執行までとなる。
「ローン・ヒルトン。そなたにも刑の立ち会いを申し付ける。公平に執行される様子をしかと見届けよ。」
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散々迷いましたが。結果より厳しい方に向かってしまった感が…
更なる軽減については、どうか皆様方の嘆願を宜しくお願い致します。
「…奴の処罰は、殿下のご決断に委ねます。しかし、一つだけ。」
そう声を上げたヒルトンに全員が視線を集めた。
「安らかな死を与えたとて、王家のご子息と多くの仲間を殺した罪はそれ相応の罰であるべきかと思っております。先日のベレアン捕虜の逃亡加担も然りです。…奴は我が国と仲間を裏切るような行為が多く目立った。…ここに居る皆は奴のような大義を成せているわけではありませんが、貴方様とこの国に…忠実に行動してきました。どうか、物事を平等に図らった上でのご決断を、お願いします。」
そう言うと老体をゆっくりと曲げ、深々と王太子殿下へ頭を下げた。その言葉に軽く頷く人々も多かった。ヒルトンの言葉は全うだと思う。カイもそう思いざるを得なかった。誰しもクロード様のように大きな任務を数多く成してきたわけではない。その面では劣ってしまうが、微力ながらも真っすぐに国を守ってきた人間がほとんどだ。そんな人々の献身的な成果も、殿下のご決断に加えて頂きたいということなのだろう。
クロード様をお守りしたい、だがこればかりはカイもまたヒルトン側の想いを否定することはできなかった。
けれども、実験体のネズミの様子を叔父上に当てはめれば、当時自分自身果たして正常に判断することができただろうか。
王太子は実験を行った捕虜─サイルを下がらせるよう合図をした。兵により牢獄へ連れ戻されるのを確認した後、その場にいる皆に向けて声を上げる。
「見ての通りだ。クロード・シーバック当人より、あの日帰城したその場で毒霧で亡くなったと公表した全ての者の頸動脈を斬りながら退避した旨、報告は受けていた。だが戦下での混乱を防ぐ為、今まで我が一存でその事実は伏せてきた。
現在、戦争は終結し、戦犯に対しての処罰を行うべき時だと考えている。」
姉である第一王女を見れば、彼女も青ざめた表情をしていた。聡い者であれば当時の状況でも、残された傷跡を見て(公表に)違和感を感じただろう。
遺体の状況、太刀筋のキレ、そして亡くなった者達の最期の表情。殆どが無表情に近かった。苦悩する顔情が無い、ということは、それだけ苦痛を感じる間は無かったという事だ。
あの日あの時、クロードが真っ先に殺したのは、彼自身の心だったのかもしれない。
「何か、意見のある者は忌憚なく申せ。」
会場内を見回しつつ、王太子は判断を下す為の意見を広く皆に問うた。
「生きている方が、こんなにも…」
「ネズミだから、ではないのか?」
「いや…我ら人間もネズミと同じく動物だ。身体の構成などは異なるが、血を巡らせ脳を動かす仕組みは人間でも同じだ。」
「じゃぁこの毒を浴びれば、死んだ方がまし、ということなのか…?」
傍聴者達は個々に目の前の結果に関する意見を口にしていく。バラバラな見解と捉え方になってしまうのはこれだけ人が揃えば仕方ないことだろう。
「じゃぁあの日死んだ人間は、毒霧で死んだわけじゃないということか…?発見された死体は、皆顔が分かるほど、人らしい姿だったんだろ?」
「毒が回る前に誰かに殺された、とか」
「…あの日帰還したのは、」
誰もがその真実に近づく。公には毒霧による死亡とされていたが、目の前の実験結果が公の事実は虚偽であると思わざるを得ないだろう。そして誰もが考えた。あの日、帰還した人間が。英雄と評された人間が、何をしたのかを。
時を知らせる鐘の音が鳴った。
「これより、前の戦場で起きた毒霧の検証を始める。」
王太子殿下の掛け声と共に、サイルに向けて始めるよう合図される。それを受けてサイルは頷き返し、手際よく動き始めた。
サイルは二つ用意したクズ鉱石の欠片の一つを乳鉢に入れ、すり潰し始める。そしてそれを用意してもらった薬液に入れ、溶かし切る。そうして出来た溶液を一旦、脇に置いた。
『では、始めます。』
そう言うと、ネズミを一匹取り出し、全員が見れるように掲げ上げた。そして、その首筋を何の迷いもなく切り裂く。すぐに吹き出す血と共に、サイルは昨晩細工したケースの中に入れると、今度は新たに取り出したネズミの首をへし折り、2番目のケースに入れる。
そして最後のネズミは生きたまま、残りのケースへ入れた。全てのケースが埋まった状態で、箱から伸びるチューブの先、3本が合わさって差し込まれている瓶の中に選別したクズ鉱の欠片を入れる。先に、乳鉢ですり潰した粉を溶かした溶液をチューブを通してネズミ達にかけた。
それぞれに変わった様子は一切無かった。それをまず全員に確かめさせる。変わらない事を示すように、計算した体積差での時間をわざわざカウントまでした。
次に瓶を密閉し、隙間から漏れることが無い様に、注射針で慎重に溶液を中の欠片へ落としていく。白く薄い筋状の煙が上がったように見えた。それを合図にまた、サイルは同時間カウントを開始した。
『60、59、58、57…』
残り1分を切り、生きたネズミの様子が変化した。頻りに頭を回し、奇怪な動きをする。忙しなく動き回り突然止まっては手足をビクビクと震わせ、何度もひっくり返った。
『4、3、2、1、0。』
唯一、変化の少なかったのは、首を切られたネズミだった。流れ出た血で赤く染まったことを除いて、生前の形を保っていたのがどれか、一目瞭然であった。
張り詰めた空気の中、実験を終えたサイルはその場から一歩身を引いて会場にいる者全てに向かって声を上げた。
『どうぞ御検分を。御手を触れられぬよう願います。』
--
使用部材の一覧表は全員に配布済
「………人の気も、知らないくせに。」
誘ってきたことだけではない。明日のサイルの行動次第でクロード様の処分が決まる。加えてサイルの処分も決まってしまうかもしれない。結果次第では彼らを失ってしまう可能性もあるのだ。それに俺はこれ以上何もできない。…何も、してやれないのだ。虚しさと不安に、尚も自己犠牲を辞めない本人たち。まだ癒えない戦争の傷が喚くように疼く。震える手をぐっと握り締め、深呼吸を繰り返す。
その晩、まともな睡眠を取れないまま、次の日を迎えてしまった。
___________________________
「………時間だ、来い。」
定刻10分前。総督はサイルの牢獄を訪れていた。定刻前までも継続してカイの使いからクズ鉱は届けられていた。準備が整っているかどうかは知らないが、決まりは決まりだ。サイルを連れて牢獄を後にする。
付いた場所はクロードが最初に裁判を受けた場所とは異なるが、ほぼ等しい広さの広間だった。傍聴人が「コ」の字を描くように並んでおり、その中心に王太子殿下が座っている。傍聴人の中にはクロードと対立したヒルトンの姿もあり、その反対側にはカイの姿もある。心なしか伏目がちな表情を浮かべている。
そして「コ」の字型の間の空間にサイルが要求していたものが綺麗に揃えられている。ネズミの箱ももちろんあった。
「……会が始まってしまえば道具の変更や追加はできない。用意されている物や状況に問題ないか、確認しろ。」
『…ぁ、すみません。…有難う、ございます。』
頭がぼうとする。やることはまだまだあるのに。クズ鉱を集めてきてくれた事にも感謝し、ぼんやりと映るカイの顔に微笑みを返す。そっと頭を拭う手がそのまま耳にかかるものの、サイルは何も感じなかった。こんな無防備な状態で触れられて、感じぬ事など無かったのに。優しく肌を滑っていく布の感触も、当たっているということがわかる程度だ。それさえ感じない部分もある。
ひとまず、発生させた成分をそれぞれのケースに均等に送る仕掛けは作り終えた。これからはクズ鉱の選別作業がある。使える鉱石が一つでもあればいい。実際、必要とする成分を含む鉱石は数が少ないし、鉱物としての価値もない。地道に朝までに探していくだけだ。
体を起こそうとして、ぐらりと揺れ、カイに凭れ掛かる。こんなにも体が動かなくなるとは思っていなかった。サイルは顔を上げてわざと懐いた様にみせて、カイの耳元に囁きかける。
『それ以上触れられたら俺…やりたくなっちゃいますよ?』
敢えてふざける様に言い、サイルは身を起こしてカイから離れた。
『もう、大丈夫ですから。明日を楽しみにしていて下さい。』
最後にそう微笑んで、カイに別れを告げる。サイルは追い出すように牢獄の外へと、カイの背を押した。
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翌日の実験会場のセッティング、お任せします。(その方がサイル視点での臨場感が出せるので)
どうぞ宜しくお願い致します。
その場にそっと置くように言葉を呟いた。クロードがどこまで聞いているか分からないが、伝えておくべきだろうと言葉を続けた。
「お前を助けて欲しいとベレアン捕虜から頼まれている。俺はお前のように器用な人間ではない。現状においては人一人救うだけで手いっぱいだ。…そして今、最優先で救わなければならないのは…クロード、お前だ。
捕虜がどれほど優秀な人間でも、厳しい背景を抱えていようと、俺には関係ない。それよりも、幼い頃から鍛錬に励み、自身の罪を償おうともがきながら、常に国のために努力を惜しまなかったお前にこそ、生きて欲しい。…人の命に優先順位があるわけではないが、人を思う気持ちにはどうしても順位が付いてしまう。」
牢獄を出て鍵を閉める。クルリと出口の方を向き、クロードには背を向けた。
「明日、その捕虜による説明でお前の処分が決定する。どんな判決になっても悔いが残らぬよう、過ごしておくといい。…それから」
そう言い残すと、懐に手を忍ばせ何かを取り出すとそれを牢獄の外に置いた。クロードも隙間から見える距離だ。置かれたのはクロードから没収していたあの短刀だった。
「…これは、ここに置いておく。」
そう言って総督はクロードの前を後にした。
「総督、御迷惑をお掛けして申し訳ございません。」
真っ先に、先日の件をクロードは謝った。幾ら気が動転していても、あんな暴挙をしてはならない。騎士にあるまじき振る舞いだったと深く反省していた。そして、その上で今後についてクロードは改めて総督に嘆願した。
「どうか、カイ・アビーの事、宜しくお願いします。」
自分が今まで総督や王弟閣下、それに現王太子殿下に目を掛けて頂いた事を、決して忘れてはいない。その期待をこれからはカイに向けて貰えれば、きっと立派に彼は担ってくれる。もう今までの恩に報いる事が出来ないクロードにとって、最後の奉公になると思った。
そうして同時にもう一人の命の嘆願に力を注ぐ。
「…もし、許されるならば、ベレアン兵捕虜のサイルの存命にもお力添え頂ければ、幸甚の至りに存じます。
彼は優秀な人物です。己の立場もよく理解しています。最初の捕縛するまでの逃亡の際も、高い適応能力を発揮しておりました。
彼を危険視する総督の御心も承知しておりますが、私は彼にも生きるという希望を与えてやりたいのです。彼のような者でも人間として普通に生きていける世界を残していきたい。自身の存在を道具としてみるのではなく、ちゃんと一人の人間として─」
そこまで言葉にしたものの、所詮は己の自己満足にすぎない。そうクロードは感じた。それでも彼がクロードに放った言葉はどれも、無視出来ぬほど核心を突いていた。そんな彼の声が、言葉がどうしても忘れられない。
「申し訳ございません。私は彼に…サイルに生きていて欲しいのです。」
クロードは自身の胸の内を打ち明けた。
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済みません。カイ様宛てのロル…字数の加減で断念しました。次回に書き入れます(陳謝)
その夜、カイは1人でサイルのいる牢獄に再び現れた。カゴには溢れんばかりのクズ鉱が入っていた。あれから騎士たちに依頼し、各箇所からクズ鉱を集めてもらった。それをサイルの元に届けにきたのだが、合わせて別のバケツも持ってきていた。
サイルの様子を伺う。少し眠っているように見えた。看守に牢獄の鍵を開けてもらうように伝え、中に入る。クズ鉱の入った籠とバケツをそばに置いた。そしてバケツからお湯に使っていた布を取り出すと軽く絞り、サイルの体を拭こうとした、が。
「サイル、…君の身体を拭いてあげたい。触れても問題ないか?」
起きるか分からないが一応声をかけた。
------------------
「……様子はどうだ」
一方、総督はクロードの牢獄に足を運んでいた。大方、明日招集したいメンバーには声をかけ終わっている。全員参加できると言ってくれた。そして明日行われる捕虜の実演によって決まってしまう男の運命に、俺はその前に一度様子を見に来よう思ったのだった。
牢獄の中を見ると、落ち着いた表情で眠っているクロードがいる。あれからしばらく熟睡していたようだが、その後目覚め、水分や食事も摂り始めたらしい。カイが伝えた言葉のおかげだろう。よかったとほんの少しだけ胸を撫で下ろしていた。
その夜、カイは1人でサイルのいる牢獄に再び現れた。カゴには溢れんばかりのクズ鉱が入っていた。あれから騎士たちに依頼し、各箇所からクズ鉱を集めてもらった。それをサイルの元に届けにきたのだが、合わせて別のバケツも持ってきていた。
サイルの様子を伺う。少し眠っているように見えた。看守に牢獄の鍵を開けてもらうように伝え、中に入る。クズ鉱の入った籠とバケツをそばに置いた。そしてバケツからお湯に使っていた布を取り出すと軽く絞り、サイルの体を拭いていった。水浴びはさせてやらないが、これくらいなら許されるだろう。
痛みを覚悟しながら自分なりに優しく丁寧に体を拭いて行った。
------------------
「……様子はどうだ」
一方、総督はクロードの牢獄に足を運んでいた。大方、明日招集したいメンバーには声をかけ終わっている。全員参加できると言ってくれた。そして明日行われる捕虜の実演によって決まってしまう男の運命に、俺はその前に一度様子を見に来よう思ったのだった。
牢獄の中を見ると、落ち着いた表情で眠っているクロードがいる。あれからしばらく熟睡していたようだが、その後目覚め、水分や食事も摂り始めたらしい。カイが伝えた言葉のおかげだろう。よかったとほんの少しだけ胸を撫で下ろしていた。
その夜、カイは1人でサイルのいる牢獄に再び現れた。カゴには溢れんばかりのクズ鉱が入っていた。あれから騎士たちに依頼し、各箇所からクズ鉱を集めてもらった。それをサイルの元に届けにきたのだが、合わせて別のバケツも持ってきていた。
サイルの様子を伺う。少し眠っているように見えた。看守に牢獄の鍵を開けてもらうように伝え、中に入る。クズ鉱の入った籠とバケツをそばに置いた。そしてバケツからお湯に使っていた布を取り出すと軽く絞り、サイルの体を拭いていった。水浴びはさせてやらないが、これくらいなら許されるだろう。
痛みを覚悟しながら自分なりに優しく丁寧に体を拭いて行った。
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「……様子はどうだ」
一方、総督はクロードの牢獄に足を運んでいた。大方、明日招集したいメンバーには声をかけ終わっている。全員参加できると言ってくれた。そして明日行われる捕虜の実演によって決まってしまう男の運命に、俺はその前に一度様子を見に来よう思ったのだった。
牢獄の中を見ると、落ち着いた表情で眠っているクロードがいる。あれから食事も摂り始め、生命力を吹き返したようだった。
そしてケース容器の密閉度を確認すると、サイルは頷いた。
『あとは、鉱山内の各所で採掘したクズ鉱を、出来るだけ多く集めてきて下さい。場所はバラバラであればある程良いです。』
鉱石を溶かす為の薬品は必要だが、できる限り使う物は自然にある物の方が良い。薬品を混ぜて作ったところで、信用されていなければ、違う毒物で説明したと疑われても仕方がない。それに原因物質の凡その見当は付いていた。
『毒性を考慮すれば何度も行う訳には参りません。毒霧の影響に異を唱えそうな方々を集めて頂いた上で、披露致します。
もし、毒が漏れる事を憂慮されるのならば、自分と皆様との間に透明な仕切りを設けて下さい。何なら俺を仕切りで密閉…隔離した上で行うのでも構いません。実験そのものが見える状態でさえあれば良いのです。
実験自体に不正が無い事を、皆様に確認して頂く為の処置です。』
宜しくお願いします、と再度頭を下げるサイルに、王太子は静かに頷き返した。
「相分かった。そこまで申すなら、明日9時に実験見分を行う。専用の場所を用意し
ておくので、それまでに準備を整えておく様に。」
そう告げて、王太子は踵を返した。同様に後に続いていくカイに、慌ててサイルは声をかけた。準備の為に頼みたい事が幾つかあった。
『クズ鉱の選別をしなきゃならないので、集まった順に俺の所まで持ってきて貰って構わないですか?』
それと…このネズミ達の世話も、とネズミの入った小包を渡す。同じ状態で、生きたままと死んだものと血を抜いたものの三つを比較しないと、その差が明確にならない。そこまでして、初めてクロードがやった行為がどういう意味を持っていたか、明確になる。サイルは一切妥協する気はなかった。
--
…というわけで。ヒルトン氏にも実験見分会に参加して頂いた方が良いでしょうか?
第一王女は勿論参加します。
「本当に、大丈夫…なんだな?」
弱々しい声で確認する。水浴びさせたくても今はできない。捕虜であることには変わりなく、王太子殿下と総督の前である。功績をあげたとしてもその待遇を履き違えてはいけなかった。
後ろからやって来る2人の前にこれ以上立っているわけにはいかず、身を引いた。
捕虜はここで実践して見せると言った。やや上から目線の言葉に「なんでこいつの指図を受けなければいけないんだ」と思ったことは心の中だけに留めておこう。
「……おい、」
近くにいた騎士を呼びつけ、具体的に必要なものを取りそろえるように伝えた。これからやろうとしていることは認識できた。しばらくしてから指示したものを全て持ってきた騎士から受け取り、牢獄の扉を開けるように命じた。中に入り、受け取ったものを捕虜の前に差し出す。小さい小包の中でカサカサと音を立てている。それから透明なケースに薬品類が揃えてあった。
「不足があったら言え。薬品のケースを使えば、食糧庫を齧りつくしたこいつに浴びせられるだろう。…これで、再現は可能か。」
無表情で感情の読めない姿。しかしどこか、託すように薬品のケースを手渡した。
ごわごわの武骨な顔だがサイルはカイに笑って見せた。
『見た目がごつくなっただけですから。それとも…女みたいな前の俺の方が好みでしたか?』
明け透けに言う。足は、平気だと言わんばかりに立ち上がって、その場で足踏みをした。実際傷口の周囲は盛り上がった肉で埋まっていて、固定されている感じだ。
多分、痛覚が鈍っている。だがそのことは、言葉にしなかった。
『体がベタついているので。水浴びさせて貰えると有難いんですが。』
そんな風に他愛ない事を、カイには話し掛ける。それだけ想って貰えるのは有難い。けれどそれ以上親しくなるのは、いざという時に困るのだ。
カイを傷つけたくない。傷ついて欲しくない。無事でいて欲しい。そう願うのはサイルもだから。
響く二人の話し声に、捕虜との親密さは十分に伺えた。此度の計画にも、捕虜が尽力したという報告は受けている。互いの駆け引きの上で、現状に至っているのだろうが。
「行こう。」
総督に声を掛け、王太子は階段を下りた。
先に気づいたのはサイルだった。近づいてくる王太子に、頭を垂れて跪く。黙ったまま、王太子はサイルの体を上から下まで隈なく見回し、徐に口を開いた。
「立つが良い。」
言われるまま、顔を上げてサイルは立ち上がった。王太子の目は変わらずにサイルの体に向けられている。近くで見れば一層、その酷さが窺えた。元々がどんな身体だったのかわからぬが、カイの焦り様からして、相当捕虜の有り様は変わってしまってるのだろう。
「其の方が浴びたという毒薬が、先の毒霧と同じものだと聞いたが、それは真実か?」
王太子のその言葉にサイルは目を見張った。そして首を横に振った。だか彼ら三人が此処へ来たのが、その話があっての事なら恐らくは…王太子に告げたであろう相手、総督に目を向ける。彼がそう言ったなら、その意図の目指す先は同じ―そう信じて、サイルは王太子に申し出た。
『毒霧とは異なる種類のものです。ですが、もし御協力願えるのであれば、皆の前でその毒霧の効果を再現することが可能です。百聞は一見に如かず。実際に目撃すれば、誰一人として彼の非を責める事は出来ません。出来なくなる筈…です。』
「…出来るか? 総督。」
「…捕虜からの申し出でした。誰も、近づけるなと。」
間違ったことは言っていない。あの姿になるような毒を浴びており、その毒がまだ近くに残っているかもしれない。それを王太子殿下のお手に触れてしまえば、捕虜のような耐性があるわけではない。苦しみ、その身の姿に絶望し、最悪死に至ってしまう可能性は捨て切れなかった。
しかし今は相手からもう問題ないと申し出がある。油断を誘って王太子殿下に危害を加えるための餌だったとしたら、カイがいるからなどは関係なくその首を斬ってやる。万が一に備えて懐の短刀を握りしめていた。
「本人が問題ないと言っているので、近づかれても構いません。ただ、先にカイを。」
そう言ってカイの方を向く。カイは事情を察したように頷き、すぐにサイルの牢獄前にやってくる。格子を掴みながら心配そうな瞳をしていた。
「サイル!その体は、足は…声はどうしたんだ… それは治るのか? ここで死ぬなんて、絶対許さねぇ…!」
震えながらもはっきりとした声でサイルに声をかけた。
もう嫌なのだ。クロード様しかり、サイル然り。大事な人達が苦しそうにしているのを、死にそうになっているのを見るのはもう嫌なのだ。
「あれは…生きているのか? 近づくのが危険、というのはどういう事だ?」
王太子はそう総督に問い返した。
人間の気配に、微睡むサイルはすぐさま意識を覚醒させた。自分でも驚く程よく寝た。あの体が浮き上がるような熱は引いて、代わりに節々に痛みが残る。だがそれも、経験上でいけば高熱による一過性のものだろう。
開かない眼をさらに細め、相手を確認する。どうやら数日前に話をした相手-総騎士団長と、その前に立つのは…身なりから察するにキゾン国の王太子だろうか。そして、一番後ろにいるのは…カイ?
カイの無事な姿に安堵する一方、動揺しているのであろう様子に、サイルは何とか平気だと伝えたい思いが募った。
肉体を動かすのは億劫だが、サイルはのっそりと体を起こして向きを変え、三人に拝礼した。近づいてこないのは何故だろう。
そう言えば「誰も近づけさせるな」と頼んだ事を思い出し、もうその事は反故にできると伝えるべく、サイルは声を上げた。
『毒の中和は、完了しております。近付かれても問題ございません。』
自分でも驚くほどダミ声になっていた。
あれから3日は経っている。見た目は随分変わってしまったが、毒の影響が消えてる今はどう触られても心配するに及ばない。
--
サイルの声音のガジガジ具合表現に「」を『』にしています。ただそれだけなので、深い意味はございません。毒薬の残滓はすっかり無害化済。
そう言って総督は立ち上がった。しかしカイは動かぬままでいる。表情を見れば酷く狼狽えているようで一点を見つめているようで目は泳いでいた。「立て、王太子殿下のご命令だ。」と言うと、不安そうな表情で総督を見つめる。表情はクロードを彷彿とさせた。
「捕虜に、何かあったのですか?」
「……先ほど言ったとおりだ。」
そう言うと総督を先頭に王太子殿下が続く。カイは総督に並びながら王太子殿下を導くように歩き始めたが、隣でしつこく質問してくる。
「総督、どういうことですか?! サイルは…捕虜は、無事なんですか?…そもそも、なんで言ってくれなかったのですか?私は一番彼に___」
「口を慎め。王太子殿下の前だ。」
ピシャリを言葉を切るとカイは黙り込んだ。自分の知らないところで起こっている出来事が多すぎるのだ。しばらくすればサイルのいる牢獄の近くまでやって来る。螺旋階段を降り切ることなく、牢獄を上から見下ろすことのできる位置までやって来る。牢獄の中で埋まるサイルの姿が見えた。
「殿下、あちらでございます。…近づくのは危険です、一番近くてこの距離になってしまうことをご了承ください。」
やや背後にいるカイは目を見開いて言葉を失っていた。見せるなと、近づけるなと言われていたがこうなってしまっては仕方ない。そもそも約束を守る義理など無かったたのだ。
捕虜の様子と殿下の様子に注意を払いながら黙って光景に溶け込んでいた。
あの時点で毒霧の発生を予見出来た者はいない。それに毒霧自体、ごく稀な現象である。記録に残されているのでさえ、数える程も無い。ただ十数年前の崩落事故以来、鉱脈の発見と共に毒霧の存在も明確になり、同時に危険性に警鐘を鳴らす研究者が現れた。それでも以後にはっきりと毒霧であると判定できたのは、例の戦場の一件のみである。
総督の言うような症状が毒霧特有のものであるかどうかまでは、まだ確定していないのが現状だ。当然、その事は総督も知っている。
「毒霧の件は別にしても、一度その捕虜を見ておきたい。」
そう王太子は言った。カイが望んだもう一人の命、それがその捕虜ならば、直接この目で見定めたい。そして王太子はカイに視線を向けた。
「カイ・アビー。私はクロード・シーバックを、罪人国外永久追放か、長期の監獄島服役か、断腕と騎士団永久追放…その何れかに処するつもりだ。そして総督の言う通り、毒性が人体を著しく損傷させてしまうものならば、クロードの酌量減軽を行うよう取り計らえるが、彼自身が犯した罪が消せる訳ではない。」
国外追放は、罪人奴隷として商船に引き渡すもの。いわば人間の尊厳の死に値する。監獄島服役は、世間からの隔絶。いわば社会内の抹殺。そして断腕は、同じ過ちを二度とさせぬ為に剣を持つ手を奪う。いわば剣士としての死に値する。
運が良ければ、新境地で奴隷から新たな人生をやり直す機会が得られるかもしれないが。二度とこの地へは戻ってこれないだろう。
服役を全うすれば、また普通の生活に戻れるだろうが。それでも島に投獄されたという事実は、死ぬまで付きまとう。
断腕は身体に及ぼす負荷が大きいが。その分社会的制裁を同情によって相殺しやすい。とはいえこれはクロードの人柄ならばの話だ。
遺族の貴爵等を納得させる為に必要な代価は、決して安くはない。王太子は立ち上がると総督に歩み寄り、その肩を叩いた。
「私は其方を失うわけにはいかぬ。己が職分を見誤るな。」
総督がこの件での責任を負えば、今有る貴族との均衡が崩れる。叔父上が王位継承の座から身を引いたのも、王国を安定させる為だ。
「これより捕虜の見分に参る。案内せよ。」
そう、王太子は二人に命令を出した。
あの時点で毒霧の発生を予見出来た者はいない。それに毒霧自体、ごく稀な現象である。記録に残されているのでさえ、数える程も無い。ただ十数年前の崩落事故以来、鉱脈の発見と共に毒霧の存在も明確になり、同時に危険性に警鐘を鳴らす研究者が現れた。それでも以後にはっきりと毒霧であると判定できたのは、例の戦場の一件のみである。
総督の言うような症状が毒霧特有のものであるかどうかまでは、まだ確定していないのが現状だ。当然、その事は総督も知っている。
「毒霧の件は別にしても、一度その捕虜を見ておきたい。」
そう王太子は言った。カイが望んだもう一人の命、それがその捕虜ならば、直接この目で見定めたい。そして王太子はカイに視線を向けた。
「カイ・アビー。私はクロード・シーバックを、罪人国外永久追放か、長期の監獄島服役か、断腕と騎士団永久追放…その何れかに処するつもりだ。そして総督の言う通り、毒性が人体を著しく損傷させてしまうものならば、クロードの酌量減軽を行うよう取り計らえるが、彼自身が犯した罪が消せる訳ではない。」
国外追放は、罪人奴隷として商船に引き渡すもの。いわば人間の尊厳の死に値する。監獄島服役は、世間からの隔絶。いわば社会内の抹殺。そして断腕は、同じ過ちを二度とさせぬ為に剣を持つ手を奪う。いわば剣士としての死に値する。
運が良ければ、新境地で奴隷から新たな人生をやり直す機会が得られるかもしれないが。二度とこの地へは戻ってこれないだろう。
服役を全うすれば、また普通の生活に戻れるだろうが。それでも島に投獄されたという事実は、死ぬまで付きまとう。
断腕は身体に及ぼす負荷が大きいが。その分社会的制裁を同情によって相殺しやすい。とはいえこれはクロードの人柄ならばの話だ。
遺族の貴爵等を納得させる為に必要な代価は、決して安くはない。王太子は立ち上がると総督に歩み寄り、その肩を叩いた。
「私は其方を失うわけにはいかぬ。己が職分を見誤るな。」
総督がこの件での責任を負えば、今有る貴族との均衡が崩れる。叔父上が王位継承の座から身を引いたのも、王国を安定させる為だ。
「これより捕虜の見分に参る。案内せよ。」
そう、王太子は二人に号令を出した。